2017-04-01から1ヶ月間の記事一覧

『東京腸女むすび』(9)

両親は、ひとり娘であるわたしに「いつまでもふらふらバイト生活してないで、ちゃんとした仕事に就きなさい」とか「そろそろ結婚のことも考えないと」といった小言をまったく言ってきません。ありがたいことです。 親戚のなかには、わたしのことを、地に足を…

『東京腸女むすび』(8)

わたしはたまに、塔子さんは天気を操ることができるのではないかと思うことがあります。なにしろ、彼女と会うときは、いつも雲ひとつないような快晴なのです。ひょっとしたら、塔子さんは雨というものを見たことがないのではないかとさえ思ってしまいます。 …

『東京腸女むすび』(7)

わたしが住まいにしているのは、仰光堂から歩いて十五分ほどの場所にある、二階建てのアパートです。腸の飛び出た女の住処、と書くと、なんだか妖怪みたいでおもしろいかもしれませんね。実際、今のわたしは妖怪みたいなものです。でも、このアパートからは…

『東京腸女むすび』(6)

季節の話といえば、わたしが仰光堂でお仕事をはじめた年に、こんなことがありました。 クリスマス時期のことです。 店員全員がサンタ帽子をかぶってお仕事をすることになりました。 茅原主任も、おおきくて強そうな身体の鎌田店長も、みんな照れ照れでサンタ…

『東京腸女むすび』(5)

わたしよりも三つ年上で、長身美麗の才女である塔子さんとは、大学に入った年に出会いました。 塔子さんは、出会った頃から「あたしは自分の人生を余すところなく楽しんでいるぞ!」というオーラを全身から放っていました。そして、彼女の周りには、同じよう…

『東京腸女むすび』(4)

大学をなんとか卒業して五年が経ちました。 わたしはいま、北海道のとある地方都市に住んでいます。 北海道は地元ですが、この町が地元というわけではありません。なるべく、知り合いに出会うことは避けたかったので、結果オーライではありましたが、かねて…

『東京腸女むすび』(3)

勝手にひと呼吸おいてしまって申し訳ありません。 それだけ、話しにくいことなのです。 きゅるきゅるきゅる。 大学時代にお付き合いをさせていただいた方がいました。 ひとつ年下の男性でした。 わたしは彼を「サトウさん」と呼び、彼はわたしを「小竹さん」…

『東京腸女むすび』(2)

ほんのわずか、ひょっとしたら他のひとたちにも、似たようなことが起きているのではないかという期待を持ちました。 なにか、それこそ超自然的な出来事が一帯を襲ったのではないか? あるいは神を冒涜するような恐ろしい秘密兵器が使用されて、人間の身体を…

『東京腸女むすび』(1)

腸のきれいなおねえさんは好きですか? ○ ○ ○ こんなわたしでも、大学生の頃は、ひまさえあれば新宿や渋谷、池袋や秋葉原、ときにはざわざわうごうごとした下北沢などを、なにかいいことないかしら、なにかおもしろいものないかしら、と歩き回っていました。…