2018-07-01から1ヶ月間の記事一覧
西瓜は山を登り海を飛び越え、手始めに隣国の王様の盃にぼこんと乗っかり、意外に丈夫な盃に驚いてみせたのを王様が気に入り、ぺちんと褒めるために叩いてやったら、西瓜もまた上機嫌で弾んでゆき、段々畑で農民を追いかけつつ跳ね落ちていくと、そのままア…
速めた足がぷるぷると震えはじめる者もいるにはいたが、皆それぞれ西瓜ころがしに対しては足の震えのことなどお構いなしに振る舞えるくらいの憤りは持っていたので、川魚の急坂から西瓜ころがしの西瓜を蹴落とすのは、私や和尚が思っていた以上に盛況で、噂…
もちろん、番台の女の笑い声が常に鈴蛆の湧いたような声であることは理解できるのだが、理解できないのは、どのような生活を送れば笑い声が常に鈴蛆の湧いたような声になるのかであって、おそらくそれを注意する者も傍にはおらず、大口を開けて笑うものだか…
鈴蛆など最近では見かけることすら少なくなり、ゆえに耳に鈴蛆が湧くなどというのは、遠い昔のはやり病のように思われるかもしれないが、もちろん、この土地がいくら野良うずみがうろつく土地であるからといって、いまどき鈴蛆が頻繁に湧いたりすることなど…
川魚の急坂から西瓜ころがしの西瓜を蹴落とすことは、つまりは鐘爺に飼われていた哀れな老犬を弔うことでもあり、もっとも弔うというのは多分に弔う側の気持ちを満足させるものであり、それは和尚もかねてから説いている話で、大事なのは弔う側がそれを忘れ…
野良うずみというやつは、口にできるものが目に入れば躊躇うことなくもしゃもしゃとやりはじめるので、鐘爺の犬の餌に限らず、ひびの入った西瓜なんかにも顔を突っ込むものだから、西瓜ころがしにとっても厄介な存在で、仮に野良うずみの毛皮が高く売れるの…
皆の足が速まったからといって空山のふもとまでにはまだそれなりの距離があり、ぷくろうちを作るほど容易いものではなく、案の定、ラリゲの奴が軟弱なところを見せはじめ、大量に背負ってきた桃を齧り出したあたりでようやく鐘爺の飼っていた犬の墓が見えて…
西瓜ころがしの老人が鐘爺という綽名で呼ばれるようになった頃、すでに鐘爺のことを知る者は少なくなっており、結果として西瓜ころがしの老人は鐘爺の悪名を再燃させる役割を果たしたわけで、その一点のみにおいて西瓜ころがしの老人にも価値があったといえ…
和尚はすでに和尚ではなくその呼称は和尚時代の名残であり和尚という綽名と化しているだけなのだが今の和尚よりも和尚はよっぽど和尚なのでこの土地の人間はみな和尚を今なお和尚と呼んでいるわけで、和尚を和尚と呼ばぬ西瓜ころがしの老人が土地の鼻つまみ…