2020-04-01から1ヶ月間の記事一覧

『空にかたつむりを見たかい?』 第30回

「よーし、じゃあ行くぞ」 阪市さんがベサメ・ムーチョ号のエンジンをかけた。 「ばっちり撮っておけよ」 カメラを回すダイチに向かって阪市さんが大声で叫ぶと、ベサメ・ムーチョ号は桑窪家の畑から尻悦部の空へと飛びたった。点々としか建造物のない尻悦部…

『空にかたつむりを見たかい?』 第29回

かたつむりの謎も、「絵」の謎も、イヌフラシの謎も解明できないまま、夏休みは中盤を迎えつつある。閉校記念式典用の映像だけは、順調に撮影できていた。昨日も、同窓会会長の笠井さんへのインタビューを終えたところだ。 そして今日は、阪市さんの久しぶり…

『空にかたつむりを見たかい?』 第28回

知悦部小学校同窓会会長 笠井康博 ――知悦部地区小学校と地域を語る どうも。知悦部で農業をしている笠井康博です。 あ、そうか。そうだね。知ってるよね。ははは。笑われてるかな、今。 真面目な感じが出ていい? そう? じゃあ、ちょっと固めにいこうか。 …

『空にかたつむりを見たかい?』 第27回

「じゃあ、ゆいっぴ。あっちから好きに自分の歌を歌いながら、ゆっくり歩いてきて。カメラ前まで来たら、そのままカメラを追い越して歩いていって。それだけでいいから」 「ほんきーとんくうぃめーん!」 そう叫んでユイは、中磯瀬の町に向かう道を走って行…

『空にかたつむりを見たかい?』 第26回

帰宅部というのは、学校が用意できなかったものに価値を見出した者のことで、逆に言えば、何かの部活に入っている者は、「学校が用意したもので満足している奴」だとも言える。 詭弁だと言われることもあるけれど、土佐先生や塔子さんは納得してくれた。 僕…

『空にかたつむりを見たかい?』 第25回

「アユムはたまに弱気になるね」 僕がうじうじと辛気臭いことを考えているのを察したのか、ダイチが言った。 「別に、普段から強気で生きているつもりはないんだけどなあ」 「いや、そうなんだろうけど、僕は素直に、アユムすげえなあって思うこといっぱいあ…

『空にかたつむりを見たかい?』 第24回

「防風林の中は大丈夫なんじゃないかな」 確証はないが、ナントカ菌にも薄め忘れた農薬にも負けず、あそこの木々はたくましくそびえている。もしそこに「空飛ぶかたつむりらしきもの」がいるのなら、防風林にカメラを向けてさえいれば、映りこんでくれるかも…

『空にかたつむりを見たかい?』 第23回

夏休みに入り、式典の映像も本格的な撮影を開始することになった。 とりあえず今日は、老人会の泉水さんへのインタビューを終え、僕とダイチは、歩いて空飛ぶかたつむりを見た川まで向かった。この後、隣のクラスのユイに出演協力してもらい、オープニング用…

『空にかたつむりを見たかい?』 第22回

知悦部地区老人会副会長 泉水せつ ――知悦部地区小学校と地域を語る 多少のろのろでも、変な運転しないうちは、大丈夫かなとは思うけどねえ。バスも中磯瀬にしか来ないし、年寄には不便だねえ。 この間、高齢者の自動車講習に行ったけど、自分の名前を書けな…