2022-03-01から1ヶ月間の記事一覧

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(24)

大鳥が荒らした牧場の近くにはクリハラの家の麦畑があり、二年に一度、クリハラと父親は共にミステリーサークルを作っていた。ドローンなどが普及するよりも前の話で、上空から撮影した映像は、キックがラジコン飛行機にカメラを括り付けて行った。撮影テー…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(23)

件の港町は海岸特有の錆と塩気と黴た木造建築の匂いが漂っていて、空き家と区別のつかない民家や店が並んでいた。夜中に母と祖父に連れられ、そのうちの一軒の酒屋に入ったことがある。早寝の子供だった私は夜中に外出すること自体、現実感を喪失するに充分…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(22)

小学校復帰の前日、授業の進み具合を訊きにタッちゃんを訪ねた。タッちゃんの家の裏にある大きな森では、ちょうどフランク・ザッパがワニをさばいていて、私もあやかることにした。火で炙ったワニの肉は思いのほか美味で、しかし「ワニばかり食べると種なし…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(21)

大きなフナムシが砂糖水を出すのは知っていた。小学校の修学旅行で見学した海辺の博物館の天井には所々なにやら蠢くものがあり、よく見ると映画で見たエイリアンの幼体に似ていて、時折ぼさっと落下してくる。これが大きなフナムシで、逃げようとするも出口…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(20)

お嬢とは病院で出会った。入院中は車椅子生活だったが、階段の前で転倒した看護師に巻き込まれ転落したことがある。左手首に注射器が刺さり、傍にいた医者は看護師を激しく叱責するも、対応を看護師に丸投げして去ろうとした。大声で「待て!」と叫ぶと12歳…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(19)

つい最近、近所のスーパーマーケットでクリハラを見かけた。元気だったはずの彼の父は認知症を患ってしまったらしく、他人の買い物かごに次から次へと商品を入れてしまう。それをクリハラが優しく諭している。あまりに哀しくなったので、私は気づかれぬよう…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(18)

中学での給食はパンがとり放題だったが、喰えそうなものはほとんどなかった。いつも食パンを2切頂いたが、隣の席のアトシラさんが口に運ぼうとしているパンには何かが表面で蠢いていた。それは5匹ほどの小さな桃色の虫で、オリーブの実には虫の青い卵があり…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(17)

ちょうど、ねりぃが父親の墓に手を合わせていたので、目的の変更に安堵した。傷んだ古い猫の身体から流れ出る黄色い体液を観察して以来、ねりぃはとろけたような玉子料理を口にすることができなくなっていた。寺島軒で昼食をとると言っていたが、完熟しか認…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(16)

留学先の話はお嬢にしか伝えていなかった。アシリウェンプ川に架けられた橋のガードレールに『うる星やつら』の文庫版が全巻揃って並べられている理由を教えてもらう代償だった。流れで廃墟になった家の近くのバス停に私の幼い頃の写真が収められたアルバム…