創作

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(43)

不器用の烙印を押されたことが悔しくて、誰もいない教室の隅で数秒だけ泣いてみたが、すぐに怒りの占める割合のほうが多くなり、校門近くのアスレチックの壁を蹴りつけると、出来の脆さゆえに板が外れ、不思議と教頭は笑って修理してくれたが、2年と持たずに…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(42)

タズネル氏を総括として行われた映画撮影の最中、目の据わった熊男に因縁をつけられたH氏が発作を起こして退場したがあった。私が別の現場から逃亡した翌日のことで、その頃はちょうど渋谷のタワーレコードで開かれたGUIROのインストアライブを観ていた。「…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(41)

石畳氏によってK氏へと伝わった彼女の意思は、すぐに山上らをも巻き込み、「“デーゲームファシスト”の横暴で死ぬことになるのなら、せめて相討ちすべき」という彼らの叫びは大量の落花生たちを動員し、まるで『爆裂都市』のような鉄屑と豚の臓物が飛び交う狂…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(40)

まったくの偶然だが、「恥じらいの四戦士」の一人であるH氏がかつて発表した映画のプロットは姉妹を巡る騒ぎに酷似していた。『アトミック・シスターズ』と題されたプロットは講師たちから酷評されたものの、後に多くの文化人が見せた残念な言動を考えると、…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(39)

不思議な能力を持つ双子姉妹が生まれたのは16年前の7月4日で、その日、家には一羽のフクロウが迷い込み、そのまま住みついた。フクロウはなぜかリンゴ以外の食物を受け付けず、それは姉妹も同じだった。そして姉妹が3歳になる頃、姉は突然、読んだことのない…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(38)

学校祭最終日となる翌日の朝、書いた覚えのない「夢に出てきたカミサマは 髭を生やしたジャンキーで 俺はエドミーあんたもどうだい 笑ったままでニヤリと言った」というメモを日記帳に挟み、珍しくベーコンと共に焼いた目玉焼きの出来具合を眺めながら、雨天…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(37)

学校祭2日目には仮装パレードなどという恥知らずな催しが行われるが、通院日がずらせないと言い訳し、参加は拒否した。薬局で安定剤を処方してもらっている間、別の患者が受付の女性に「一羽の白鳥がシベリアに向かっているそうです」と話しかけていたが、「…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(36)

信頼できるテレビ局では、ちょうどゴルフ場のようにバンカーや池が設けられた球場で行われる野球中継が放送されていた。使いものにならない選手が動員されて催される見世物で、ボールを追いかける勢いのまま池に激しく転落する姿は痛快だが、動員されてしか…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(35)

そんなタミヤの習性は、どうやら祖父譲りのものだったらしく、地域中から嫌われていたタミヤの祖父が自宅の便所で真夜中に発作を起こして亡くなった際、朝まで家族の誰も気づかなかったことが知れ渡っても不審に思う者は一人も現れず、タミヤの同級生である…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(34)

私は下北昇平と母校をめぐる一連の出来事をタソガレさんからの手紙によって知ったが、「ある程度の胸がすく思いというものは味わえたものの、歯磨きのし過ぎによる右肩の鈍痛が気になって見も心も健康体からは程遠いです」と返事を書く他なかった。見越した…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(33)

「人間の内面を深く掘り下げる」という指針を持ちながら、「B型の人間とは合わない」などと酒の席で宣った専門学校の担任も含め、私が憎く思った教員の多くは命を落としているのだが、最も憎い相手は今も平気で生きているので、私に妙な期待を寄せていたのは…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(32)

小学生の頃の従兄弟は、将来の夢に「情報屋」と書いて提出し、職員室に呼び出されるような子供だったが、ベースギターを覚えてからは不思議と学校の成績も伸びていった。再び窓の外に目を移すと、アスファルトに点々と人骨らしき白い欠片が張り付いていたが…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(31)

騒がしいテーマパークの前日は沖縄に居て、私は食べ物がどうにも合わず、ドラゴンフルーツだけを食べて飢えと渇きを癒やしていた。ゆえにテーマパークでもひどい空腹状態のはずだったが、周囲に溢れるうるさいほどの明るさは私の食欲をすっかり失わせており…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(30)

すでに小学校は廃校になっていて、かつての青年団の連中は誰も綺麗な靴など履いていない。共闘隊たちもわざわざ狙い撃ちする必要を感じていないようで、呆けた顔が品揃えの悪い下磯瀬の小さなスーパーの前に棒立ちしているだけだった。数少ない子供たちは新…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(29)

公民館の裏には川が流れていて、それは小学校にも続いていた。流れ出た黄色い液体が土地に染み込み、グラウンドも腐らせてくれれば、青年団をはじめとするスポーツファシストたちの身体も期限切れのまま長いこと放置されたチョコレートのようにぼろぼろと崩…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(28)

公民館の駐車場まで来るとエイの気配もなくなり、鍵がかかっていないことも知っていた私は堂々と入口から中へ入った。祖母が民謡の練習に使っていた大広間の壁には気になる隙間があり、ちょうど良いと思ったので、たまたま持参していたシャンプーを流し込む…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(27)

飲み屋通りは湿度も高く、近づくのも不快だったが、その先に崩れかけた木造の中古ビデオ屋があるので我慢して頻繁に足を運んだ。どう調べても素性がつかめない怪し気な販売元のビデオばかりの並んでいる店で、初めて行った際には『奇習!悪習!猟奇奇人地帯…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(26)

モガリはニエトの孫で、我が家とは少なからず因縁があった。父や伯母が子供の頃、飼っていた猫が行方不明になり、祖父が探すとニエトの家で吊るされているのを発見した。温厚な祖父が他人を殴るのを初めて見たと父は言った。幸い父の猫は無事だったが、喰わ…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(25)

その翌日、無理矢理参加させられた合コンで、お嬢は「好きなタイプは身体に良さそうな人。でも恋愛沙汰は身体に悪そう」とだけ答え、皺だらけの五千円札を置いてすぐに店を出たという。後に「恥じらいの四戦士」と呼ばれた関東での私の友人たちにこの話をす…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(24)

大鳥が荒らした牧場の近くにはクリハラの家の麦畑があり、二年に一度、クリハラと父親は共にミステリーサークルを作っていた。ドローンなどが普及するよりも前の話で、上空から撮影した映像は、キックがラジコン飛行機にカメラを括り付けて行った。撮影テー…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(23)

件の港町は海岸特有の錆と塩気と黴た木造建築の匂いが漂っていて、空き家と区別のつかない民家や店が並んでいた。夜中に母と祖父に連れられ、そのうちの一軒の酒屋に入ったことがある。早寝の子供だった私は夜中に外出すること自体、現実感を喪失するに充分…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(22)

小学校復帰の前日、授業の進み具合を訊きにタッちゃんを訪ねた。タッちゃんの家の裏にある大きな森では、ちょうどフランク・ザッパがワニをさばいていて、私もあやかることにした。火で炙ったワニの肉は思いのほか美味で、しかし「ワニばかり食べると種なし…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(21)

大きなフナムシが砂糖水を出すのは知っていた。小学校の修学旅行で見学した海辺の博物館の天井には所々なにやら蠢くものがあり、よく見ると映画で見たエイリアンの幼体に似ていて、時折ぼさっと落下してくる。これが大きなフナムシで、逃げようとするも出口…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(20)

お嬢とは病院で出会った。入院中は車椅子生活だったが、階段の前で転倒した看護師に巻き込まれ転落したことがある。左手首に注射器が刺さり、傍にいた医者は看護師を激しく叱責するも、対応を看護師に丸投げして去ろうとした。大声で「待て!」と叫ぶと12歳…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(19)

つい最近、近所のスーパーマーケットでクリハラを見かけた。元気だったはずの彼の父は認知症を患ってしまったらしく、他人の買い物かごに次から次へと商品を入れてしまう。それをクリハラが優しく諭している。あまりに哀しくなったので、私は気づかれぬよう…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(18)

中学での給食はパンがとり放題だったが、喰えそうなものはほとんどなかった。いつも食パンを2切頂いたが、隣の席のアトシラさんが口に運ぼうとしているパンには何かが表面で蠢いていた。それは5匹ほどの小さな桃色の虫で、オリーブの実には虫の青い卵があり…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(17)

ちょうど、ねりぃが父親の墓に手を合わせていたので、目的の変更に安堵した。傷んだ古い猫の身体から流れ出る黄色い体液を観察して以来、ねりぃはとろけたような玉子料理を口にすることができなくなっていた。寺島軒で昼食をとると言っていたが、完熟しか認…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(16)

留学先の話はお嬢にしか伝えていなかった。アシリウェンプ川に架けられた橋のガードレールに『うる星やつら』の文庫版が全巻揃って並べられている理由を教えてもらう代償だった。流れで廃墟になった家の近くのバス停に私の幼い頃の写真が収められたアルバム…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(15)

翌日、中庭を歩いていると拍手をくれた学生が「調子はどう?」と声をかけてきた。「裸で歩いても崇められるようになった」と私は答えた。彼は「神のようだ」と笑った。お嬢と同じくヘンリー・ワイアットのファンであった彼とは、地元警官へのインタビューも…

『今日までの夜に見た夢に彩られた走馬灯にも似た自分史』(14)

「存在しているだけで支持者の支えになるのが推しというものだ。推しは非常時もただ存在してくれれば良い。慰めや励ましの言葉すら不要だ。それらは時として逆効果にさえなる。ならば推しはただ存在していてくれれば良い。少なくともお前たちがとやかく言う…