『映山紅』

 mixiで三題噺のコミュに入っている。
 最近はお話を書くことができていないが、一時期はお題が出されるたびにちゃんと書いていた。
 ブログには未掲載だったので、これから何度かに分けて公開してみようと思う。自分への戒めの意味も込めて。


【下降】【両替】【ツツジ
2010年02月28日 20:00投稿


『映山紅』

 心の狭い堀田さんは、30近くになって、さすがにその心の狭さをどうにかしたいと感じたようで、心の広さを商売道具にしている私に相談してきた。
 相談と言っても、私の心の広さは、堀田さんほど心の狭い人間に少し広さを分けてあげたところで、すぐにまた元の大きさに戻るほどの屈強な広さなので、問題は分け与えた心の分、堀田さんが私に何をくれるかということである。
 見返り、と言うと聞こえが悪いので、私は「心以外のもので両替」と言っている。
 しかし、かつてないほど心の狭い堀田さんは、果たして正当な両替をしてくれるものなのか?
 読者の皆様は、そう考えることだろう。だが、それに関しては問題ない。この「両替」は、本人の望む望まざるに関わらず、分け与えた心の分だけ相談者が「何か」を失うことになっているのだ。何が失われるのかは分からないが、とにかく私は分け与えさえすれば、分け与えた分だけ何かしらの報酬が貰えるのである。

 それにしても、堀田さんは見るからに心が狭そうである。
 相手がどんな人間であろうと、両替はしっかり行われることはわかっていながら、さすがの私の広い心も「こんな人に分け与えるのか」と、幾分か沈み気味だ。そうなると、これは堀田さんが私に払うことになる「何かしら」も結構なものになるかもしれない。

 堀田さんの、見るからに心の狭そうな顔を見ていると、どんどん心も沈んでいくので、私はすぐに堀田さんの心の狭そうな腹に手を当てて、両替を行った。
 すると、堀田さんは突然、ぱちんと弾け飛び、綺麗な血の雫となって裏山へと舞っていった。そして、綺麗な血の雫となった堀田さんは、裏山の木々に染みこみ、それらの木は全て見事なツツジとなり、美しい山となった。
 私は「ああ、ツツジは映山紅と書くものなあ」と美しくなった裏山を見て心地よくなると同時に、自らを美しい木々に変えてまで私を心地よくさせてくれるとは、堀田さんも心が広くなったものだと思った。