前田と影山のニュー・シネマ・パラダイス

スクールカースト(または学校カースト)とは、現代の日本の学校空間において生徒の間に自然発生する人気の度合いを表す序列を、インドなどのカースト制度になぞらえた表現」(Wikipediaより)


 映画学校同期で脚本家の真子晃君が映画版『桐島、部活やめるってよ』を鑑賞してきたようで、ツイッターで感想を呟いていた。

 その中で真子君は、自身の経験(運動が得意とは言えないグループだったが、戦略によってイケイケグループにスポーツで勝ったこと)を綴ったうえで「苦手だとか、できないとか、そういうことを思う前に、サッカーを(体育を)勉強することと他の科目を勉強することをどうか同列に捉えてほしいなって思う」と言っていた。

 たしかに真子君の言ってる事も分かるのだけど、スクールカーストってそもそもそういった下剋上的な展開が、能力的に可能ではあっても許されないという空気があって、だから下剋上的な展開に持っていくには、イケイケグループに勝つ前に、まずその空気に勝たなきゃいけない。そちらのほうが「敵」の実体がない分難しい。

 大学受験や社会人になってから成功して見返すのと違って、勝った後も学校生活はしばらく続く。「何あいつら本気になって勝ったりしてんのwww」という空気になる事もあって、それに底辺の子達は怯えてたりするから、可能であると分かっていても、なかなか実行できなかったりする。

 なぜ、そんな空気が強く蔓延するのかに関しては、色んな要素が混ざり合っているのだけど、イケイケグループも内心は、イケてないグループが存在しているから今の自分たちの地位があることをわかっていたりして、それが良い方向に向かえば、イケてない者がイケてないままクラスに溶け込める(クラスを構成する要素になれる)のだが、なかなかそうはいかず、大抵は「勝ったことすらなかったことにされる」レベルの抑圧に転じる。

 以前、木皿泉脚本のテレビドラマ『Q10』に対するツイッター上の感想で「今の子たちにとっては、アイドルファンであることがバレるのは大きな問題らしい」というのを見つけたが、それは違っていて、正確に言えば「アイドルファンであることが許されないキャラとしてクラスに存在している自分が、実はアイドルファンであることがバレてしまうことが問題」なのだ。

 『Q10』には、基本的に「悪い奴」は登場しない。アイドルファンであることがバレることを恐れていた河合恵美子は、成績優秀だがからかわれやすいという女の子だったが、いじめられているとは本人も周りも思っていないようだし、実際、極端な悲壮感は感じられなかった。そんな『Q10』の世界においても、上記のような空気に抗うことは困難なのだ(追記すると、河合恵美子に思いをよせるクラスメイト・影山聡は、河合が好きだということを隠していたが、それは単純に好きな人がバレるのが恥ずかしいという以上に、クラスの中ではお調子者で割とカースト的には上位に位置している自分が、底辺に近い女子に思いを寄せていることがバレる、ということを恐れていたように思う)。

 『Q10』の登場人物たちは、欠点はあっても『ライフ』に登場するような悪い奴等は存在しない。それでも、スクールカーストは存在する。しかし、スクールカーストの中においても、誰もがそれなりに楽しめる世界が構築されていた。そして、何故それが可能なのかということも、しっかり考察されたうえで、あのドラマは成り立っていた。

 磯部涼は「Quick Japan」第70号の「ゼロ年代日本次の100人」という企画の中で、衿沢世衣子のマンガを「誰もがいろいろあってもそれなりに楽しそうにちゃんとそこへ通い続けている世界」と評した。衿沢世衣子のマンガも、ただそういう世界を描くだけでなく、なぜそれが実現できているか、しっかり考えられたうえで描かれている(そうでないと、あの世界を読者が自然に受け入れるのは難しい)。徒競走で手をつないで同時にゴールするような不自然なまでの競争の否定ではない形での、スクールカーストへの対抗策。
 
 以前も少し触れたけど、映画版の『桐島〜』は、映画研究会である前田に肩入れしすぎている感があり、原作で感じられたスクールカーストに対する木皿泉的、衿沢世衣子的な対抗策への萌芽みたいなものが見えにくくなっていた。それは、前田の映画に対する熱すぎる言動を通じて忍び込む。そういえば、『Q10』の影山も映画監督を志していた。前田と影山の間にある隔たりはなんだろうと、最近考えている。

桐島、部活やめるってよ

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 呟き散らかしたことと、呟き散らかそうと思ったことのまとめ


 「涙の数だけ強くなれるの〜」なんて歌がありましたが、私はあの歌が好きではありません。涙の数だけ増えるのはトラウマだけです。フラッシュバックに悩まされるだけです。

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 「私だけじゃないじゃん」とか「私より酷いことしてる奴いるじゃん」って言い訳が、聞いた瞬間殺したくなるほど嫌い。吐き気がする。
 「強盗してる人がいるんだから、万引きくらいいいじゃん」ってのと同じだからね。

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 幼稚園に入る前。風邪を悪化させ入院した。退院の日、家までの道のり、車の窓から見えたパン屋のサンドイッチがやけに美味しそうで、珍しくねだったら「また今度ね」と言われた。おとなしく従ったが、そのパン屋はすぐになくなり、「また今度」が来ることはなかった。