メスホールの夢

 配食所の夢を稀に見る。いつも、夢の中の自分は少し先の未来の自分で、酷く生活に困窮しているわけでもないが、貧しいことは貧しいらしく、夢の中の政府が国民を死なせないために準備した食事を求めてそこに通っているらしい。自分の金でもっとまともな食事をすることが可能な場合もあるようだが、夢の中でも現実でも、食に対するこだわりはさほどなく、むしろ生かされ続けるために栄養バランスだけは優れた配食のメニューを選んでいるようだ。

 身分証明書(またはそれに代わるもの)さえあれば、配食所には入れる。おそらく、押井守の小説『Avalon 灰色の貴婦人』で描かれた配食所とほぼ同じシステムだろう。私の夢に出てくる配食所も、バイキング形式で好きなものを好きなだけ盆に乗せるのだが、レストランとは違うので、味や見た目などは考慮されていない。『Avalon』にも出てきた「各種ビタミンやミネラルを大量に加えられその結果として奇怪な味となったジュース」を、いつも夢の中の私は一気に飲みほしている(一気に飲むことによって、その奇怪な味を感じなくさせている)。

 メインディッシュとなるのは、シチューやスープなのだが、現実同様、乳製品がダメなので、その日のメニューがクリームシチューだとメインディッシュを盆に乗せることができなくなる。異様に固いパンを多めにとって、顎を痛めながら噛みしめ、ミネラルウォーターで流し込む。ジャガイモと玉ねぎた大量に入ったコンソメスープだと、自分的には大当たりだ。

 いつも、誰か知り合いが先に来ている。大抵、現実において「仲は悪くないが、気は合わない」ような奴だ。場所が場所だけに、そういう相手の方が気楽でいいと考えている。きっと、実際そうだ。話が弾むこともないが、気まずくなることもない。お互い、冷静な会話だけができる。

 私は、なんだかこの夢が好きだ。こんな内容だから、気分が良くなるなんてことはないのだが、不思議と生きようという気持ちになる。

Avalon 灰色の貴婦人 (MF文庫J)

Avalon 灰色の貴婦人 (MF文庫J)