「考えてもみよ――立小便すら許されぬ世情にあって、立喰いを生業とする者が許されるか否か。彼らもまた路傍の犬たちと運命をともにする他なく、ある者は浮浪者として収容され、そしてある者は首都を逃れ未だ戦後の佇まいを残す地方の小都市へ落ち延びて行った」(押井守『立喰師列伝 第三夜「東京オリンピックの悪夢」哭きの犬丸』98P)
「お・も・て・な・し」という恐ろしい言葉によって二度目の東京五輪が決定してしまってから、早いもので1年半ほどの時間が経過した。「どうせ開催されてしまうのなら、夜の住人たちにとってもより良きものに」と、スポーツ嫌い/オリンピック嫌いな私でさえも「なかなかに興味深いぞ」と思わせてくれる議論が評論家・宇野常寛氏が主宰する『PLANETS』の新刊において為されているが、しかし、あの忌まわしき第一次東京オリンピックの煽りを受け、排除されるべき対象となった哀れな犬たちに思いを寄せる他ない私のような社会の敗走者は、この前向きな議論を読んでさえも、自身の未来にひしひしと暗い影が迫ってきているのを感じずにはいられない。あの「お・も・て・な・し」も、私のような負け犬・哭き犬にとっては、ただの呪詛でしかなく、それでも自分自身の中にだけでも最低限の誇りを保とうと、「どうせ負けるのなら、意識的に、ある種の美学を持って敗走せよ」とばかりに、地方都市の中でも、とりわけ寂れた部類であると思われる最寄の「街」を奇才・押井守が描いた「哭きの犬丸」を模した姿でうろついているのである。ただし、無銭飲食は為していない。
さて、行くことの叶わぬ「-聲の形-完結記念展 大今良時原画展」であるが、もし仮に、私にある程度の金銭的余裕と時間的余裕、そして距離的問題と精神的問題をクリアする力があったとして、晴れてその場に足を運んだとしても、やはり、その姿は「犬丸」のそれであっただろうと推察される。華やかな場所にそぐわぬ、他のファンの方々の思い出の共有地を穢しかねない、みすぼらしく怪しげな風貌。だがそれも、どこぞの自称「中立で独立的な立場」で考察していたゴリッパな方のように、そう罵るべきとも思われないファンまでも狂信者扱いしていたわけでもないのに(ただし、選曲問題に関しては、嫌われそうなことを言った)、作品のファンの集いの中で宿命のように孤独感を抱き続ける者の一つの自己実現の形であり、私なりの「足跡」の残し方である。身分をわきまえ、寄せ書きに思いを残すことはしない。ただ、その場の光景を目に焼き付け、いくつかの戦利品を持ち帰るのみである(当然、対価は支払う)。その場にいるだけで「思い出の共有地」を穢すのだから、「目に焼き付け、いくつかの戦利品を持ち帰る」だけでも、本来ならば許されぬ悪行であろう。だが、私はこの作品の公式な催しに、もし足を運ぶのなら、犬丸のように「敗者」を演じるべきだと、割と本気で考えている。勿論、すべてのファンがそうするべきだ、などとは考えていない。私のような感想を抱いたのなら、そうして然るべきだろうと考えているだけだ。
だが、安心してほしい。何度も述べているように、あの場に平成の「哭きの犬丸」が現われることはない。行くことさえ叶わぬからだ。叶った者に「お・も・て・な・し」以上の呪詛を送りたい気持ちにもなるが、私のようなファンにはふさわしい末路だとも思う(そう考えなければ、悔しすぎるということも含めて)。

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