彼女に比べれば、たしかにマシだった(のかもしれない)

 「ファン仲間」みたいな言い方を強調されると、なんだか私なんかがちょっと気になることがあって話しかけたりしても「お前を仲間と認めたつもりはねえぞ」とか言われそうで、近寄りがたくなります。いや、こちらだって「仲間に入れてもらっている」なんて思ってはいないのだけれど、質問やツイッターでのふぁぼなんかもやりにくくなります。まあ、そんなこと悩まない方もたくさんいるのでしょうが、私は悩んで近づかないようにしようという判断するタイプの人です。そんな人間にとっては、イベントなんて哀しくなるだけなわけで……と、ここで嘆いておきます。


 さて、また『聲の形』に関する話。最近気になっているのは、小学校時代、植野や川井は他の女子からどう思われていたのかということだ。後に佐原は、「二人とも怖かった」と答えるのだが、その他の劇中で名も明かされぬ同級生たちはどう思っていたのか。以前、「植野がもし川井に学級裁判で切られていたら」という予想をしてみたが、この場合、他の女子はどちらに味方したのか。

 植野は、基本的にかなり暴力的な面の強いマウンティング女子と言えそうな振る舞い方をしていた。それは、少々貧しそうに描かれる家庭内の事情(貧しくなくとも、粗野な印象は強い)等を攻撃材料にされ、カーストの底辺へ落ちることを防ぐための防御策(言ってしまえば、先手必勝的な)ものかもしれない、ということは、幾度か指摘されているが、理由はともかく、その戦い方は、途中でやめることがほぼ不可能なものである。なぜなら、植野から硝子や佐原ほどの攻撃は受けずとも、「下の人間」とされた者たちが不満を溜めこんでいくことは、当時の植野でも察することができただろうし(硝子や佐原に対する女子の中での攻撃は、そうした不満のはけ口であった可能性もおおいにあるだろう)、その状態で戦いから降りることは、すなわち自分が攻撃の対象になることと同義だからだ。植野や川井の傍に描かれていた数名の女子を除けば、将也や硝子に対して、あまりあからさまな敵意や蔑みを持っている者の姿はあまり描かれていない。ゆえに、もしも川井が学級裁判時に「植野はたしかに悪口を言っていた」と切り捨てていたら、将也なみの転落劇が待っていたのではないかと思う。

 後に植野が、そういった振る舞いから完全とは言わずとも降りるきっかけになった(救われたと言ってもいい)のは佐原と硝子なのだが、それも含め「対決」的には敗北である(これは繰り返し述べているが、植野自身の内面的苦悩は、反省しない/できないことによって、より重くなっていたので、ここで正しく負けることができて良かったのだと思う。余談になるが、勝ち目があるかどうかは分からないし、個人的に応援する気はないのだが、ラブコメ的バトルが本格化するとすれば、『聲の形』という物語が完結した後のことなのかもしれない)。だが、植野にとっては「負ける=底辺に落ちる」ということだったがために敗北が許されなかったわけで、平和的に負けることができたのは、やはり救いだったと思う。自業自得と言えば自業自得なのだが、硝子が笑顔で処世する他なかったことと同様、植野のそれもまた不完全な子供が陥る危険の高い振る舞い方ではあり、大今先生自身が植野を「かわいそうなキャラ」と語った理由は、こういった面もあるのではないかと思う。この振る舞い方/戦い方は、おそらく太陽女子でも同様だったのだろうが、このあたり、佐原がどんな付き合い方をしてきたのかは気になる。

 さて、小学校時代の植野の周囲の女子たちに注意して読み直してみると、どうも植野以上に硝子を蔑んでいる感のある女子がいる。合唱コンクール前に「負け戦?」と口にしていた(植野が「どーすんの合唱コンクールぅ」と言っていた時)、首のところで髪が前方にハネている女子である。同一人物かどうか、はっきりとは分からないが、硝子の自己紹介時に「何この子」と口にしたり(植野が「え」だけなのに対し、「何この子」という台詞であるあたりからも、実は植野以上に硝子を蔑んでいるらしいことが窺える)、佐原に対し「つか 服ダサくね?」と言ったのもこの子だと思う。植野が硝子の補聴器を奪った時に「じゃー特別扱いしなくていいじゃん」と口にしたり、将也が倒れている姿を見て「死体ごっこかな?」と写真まで撮っているのも、おそらくこの女子だろう。ひょっとしたら「やっと気づいた?」も、この女子じゃないだろうか(その直後のコマの位置的に、どうも将也の近くにいる女子がこの女子っぽい)。川井に比べれば植野はマシという意見には同意しないが、この子に比べればたしかにマシと言えそうな気もしてくる。

 この女子は、基本的に植野の近くにいるので、ひょっとしたら植野の右腕的なポジションだったのかもしれない。逆に、川井の傍によく描かれていた子(合唱コンクールの指揮者をしていた子と同一だと思うが、これもはっきりとは分からない)は、将也が倒れている姿を目撃した際、その後の川井の「インガオーホーって知ってる?」を受けて「ふふ」と笑ってはいるものの、第一声「あれ?石田君?」と少し驚いたような表情で言っているだけだし、佐原が陰口をたたかれている時の表情から推察すると、あまり明確な敵意は感じられず、言い換えれば(本人的には)非積極的ないじめへの参加(もしくは、黙認どまり)であり、その点でも川井寄りなのだろう(ちなみに佐原への陰口のシーンでは、もう一人、すごく冷淡な目で佐原を見ている女子がいて、これがまたちょっと怖い)。彼女は、おそらく学級裁判時には川井側につく。

 もうひとつ推察だが、植野と植野の右腕と思われる女子は、おそらく将也転落直後から関係が自然と冷えていったのではないかと思う。植野が小学校卒業後、川井や島田、そして学校が同じになった佐原以外の小学校組と関わっていた様子は描かれていない。カースト下位転落後はおろか、高校生になっても将也を想い続けていた植野であるから、倒れている将也に対し笑いながら「死体ごっこかな?」と言って写真を撮る彼女と付き合いが薄くなっていくのは自然なことであろう。また、この女子の(川井や植野のように直接、将也から「硝子の悪口を言っていた」と指摘されたわけでもないのに)将也に対する態度から考えるに、もしも川井が植野を切った場合、率先して植野を攻撃したのではないかとも思う。植野がスクールカースト下位へ転落する可能性は、やはり高かったのかもしれない(こと小学校時代に関してなら、川井が下位転落する可能性よりは、はるかに高いのではないかと思う)。もちろん、硝子に対する加虐行為を擁護する気はこれっぽっちもないが、植野が高圧的な振る舞いをやめることが困難であっただろうとは思えるし、また、大今先生が「かわいそうな子」と言ったことも納得できる。そして、これほど水面下に爆弾を抱えていたクラスなのだから、硝子が転校してこなくても、きっとそのうち崩壊してしまったのだろう。長い目で見れば、植野は硝子と出会ったことによって、将也と絶縁してしまうルートを回避できたのかもしれない。

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