ね、簡単でしょ? その代償がどのくらい高くつくかは知らないけれどね……

 未成年の喫煙は、そりゃあ、なくなったほうが良いだろう。喫煙自体に関しては、個人的には、飲酒ほどの不快感はないのだが、結果的に廃れていってしまうのなら、健康リスクのことなどを考慮すれば、それは確かに仕方のないことなのかもしれない。

 だが、たとえ喫煙という習慣がなくなったとしても、過去に喫煙という習慣があったこと、煙草というものが存在していたことは、歴史から消えることはない。廃れたほうが良いものだとしても、現在この国において、成人の喫煙が(マナーの問題は別として)合法であることも変わらない。そして、それは当然、その時代を描いた創作物にも現れる。

 アビイ・ロード・スタジオ前の横断歩道を渡るポール・マッカートニーの手から、煙草を消去することは、喫煙という習慣を根絶することに、どれだけ役立つのだろう。写真から煙草を消したところで、実際の撮影でポールが煙草を手にしていたことは変わらないわけで、もっと他にやることがあるだろう。個人がいわゆる「黒歴史」を隠したがるのとは、話が違うようにも思う(そういう意味では、前回載せた、私の小学生時代の詩「マフィンおじさんへの個人攻撃」は、やっぱりマフィンおじさんの存在を隠すべきではないのだろう。おじさんのクズぶりをしっかり後世に語り継ぐ必要がある)。

 禁じるべきとされるものを、過去に存在していたという事実まで消そうとするのなら、その潔癖的思考の行き着く先は、ひょっとしたら人類の歴史そのものの抹消かもしれない。『天才てれびくん』内で1994年から1995年にかけて放送されたアニメ『ジーンダイバー』では、仮想世界内に現れた齧歯類から進化した種族「プグラシュティク」が、ある目的の為、霊長類の歴史を抹消しようとした。私は、このプグラシュティクの女戦士であるティル・ニー・ノグというキャラクターが大好きで、このところの人類の間抜けぶりに触れるたび、いっそ現実の人類もプグラシュティクに取って代わってもらいたいと思ってしまう。ティルが現実に存在し得るのなら、その方が良い。

 勿論、この世界では、いまだ『ジーンダイバー』に登場するような高度な仮想世界など出来ておらず、ゆえにプグラシュティクも存在しない。たとえ人類の歴史を抹消したところで、プグラシュティクが現れるわけもなく、それどころか「人類の創作物」である『ジーンダイバー』も生まれ得ないわけで、結局のところ実在のティルどころか、二次元のティルにすら会えなくなってしまう。

 繰り返すが、何かしらの理由によって、ある習慣が廃れてしまうこと自体は(その理由に正当性があるかどうかは、また別の話)、最終的には諦めるしかないのかもしれない。だが、未来の好奇心にあふれた研究者が、過去に存在した禁断の煙や飲み物を再現し、それが習慣として復活することはなくとも、博物館に展示され、それをまた別の好奇心旺盛な者が眺めて、過去の時代に思いを馳せる……そんな想像さえ許されないような窮屈な世界しか人類は作り得ないのだとしたら、人類そのものが、いっそ最初から存在しなかった方が、余計な苦悩を持たずに済んで楽だろうなと思ってしまう。楽ではあるけれど、私は御免だ。

「心配するな。泣きごとを言うつもりはない。たとえコンピュータの作り出した幻でも、私は現にこうして生きてる。過去も思い出もいっぱい持ってる。それに……未来もな」
(『ジーンダイバー』15th Story「進化への介入者」より)

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