あげパンとは一度しかお会いしたことはありません。

 4月24日に放送された『モヤモヤさまぁ〜ず2』を観ていたら、あげパンのお店が登場し、さまぁ〜ずの二人が懐かしんでいた(三村さんは、かつての味を忘れていたようだけれど)。アメリカ育ちの狩野アナには、あげパンの日はお祭り騒ぎだった等の「給食あるある」が通じていなかったのだが、北海道育ちの私も「そうだったらしい」という知識があるだけで、実際にあげパンが出された時に自分や同級生たちが喜んだという記憶はない。それどころか、そもそもあげパンが給食に出たのは、私の記憶が正しければ一度しかない。

 これが、北海道という土地柄が原因なのか、あるいは世代的なものなのか(ちなみに狩野アナと私は同い年なので、もしこれが世代的なものであるのなら、狩野アナはたとえ日本で育っていても、あげパンの思い出をさまぁ〜ずとは共有できなかったことだろう)は分からないが、いずれにしても、一度だけお会いしたあげパンは、油と砂糖でベタベタしていて口触りも好ましくなく、胃にも優しいものではなかったので、私が好きになれる相手ではなかった。あげパンが食べられる日を指折り数えて待っていた方々には申し訳ないが、お会いする機会が一度だけで良かったと思っている。

 私が給食で食べていたパンのうち主たるものは、コッペパン、バターパン、たまごパンと給食だよりには表記されていたが、どれも形状は一般にコッペパンと呼ばれるタイプのもので、ある程度敏感な味覚をしていれば、少々バター風味が強め、あるいはたまご風味が強めかという程度の差しかなく、まったく区別もつかずに食べていた者も多いと思う。

 パン食の日は火曜と金曜で、月曜と木曜が米食、水曜は麺食だった。麺の日のメニューがスパゲティだったりすると、メロンパンなどの菓子パン類が付いてくることもあった。給食においては、パン食のほうが好みだったので、個人的にあげパンは、貴重なパン食の日をやたら油っこくて甘ったるくてベタベタした姿で台無しにした憎き相手でもある。かなり忌々しく思ったので、もしクラスメイトに、あの油っこくて甘ったるくてベタベタした憎き相手を激しく愛でるような素振りの者がいたら、しっかり記憶に残っているはずなのだが、そんな記憶はないので、やはり特に喜んでいたような者は、私のクラスメイトの中にはいなかったのだと思う。

 崔洋一監督によって映画化もされた花輪和一さんの『刑務所の中』でも、受刑者がパン食の日を心待ちにしていた。ムショ生活をしていれば、あげパンだろうがコッペパンだろうが、よほど苦手でないかぎりは喜んでかぶりつくようになりそうだが、原作でも映画でも「最高のパン食」の際のパンは、普通のパンだった。しかし、この「普通のパン」というものが、どうもスーパーやコンビニでは、なかなかお目にかかれなくなっている気がする。

 これもまた、さまぁ〜ずの二人が『さまぁ〜ず×さまぁ〜ず』で言っていたことなのだけれど、サンドイッチでも、昔ながらの玉子だけといったシンプルなものが減り、いろいろと余計な具を混ぜ込んだものが増えていって、自分たちが慣れ親しんだ味というものと巡り合える機会が貴重なものになってしまっている。たこ焼きだって、どうして最初からマヨネーズをたっぷりかけた状態のものばかりになってしまったのか。おい、マヨネーズてめえ、自分は誰からでも好かれてると思ってんのか、この野郎。断りもなしに入ってきてんじゃねえよ。チーズ、てめえもだ。

 なんだかゴテゴテしか、くどくどしい味ばかり溢れているのは、ひょっとして、パン食の時ならともかく、米食の時まで飲み物を牛乳にするような、食べ合わせ的にどうなんだと思うような献立を貫き続ける学校給食のせいで、味覚が雑な奴が増えたせいなのではないかと邪推してしまう。私は牛乳がまったくダメなので、米の日もパンの日も麺の日も飲み物なしで給食を食べていたので、私の邪推がもし正解だったとしたら、私の舌は同世代の方々と比べれば繊細なのかもしれない。あまり取り柄の見当たらない人間なので、それくらいの強みがあってもいいと思う。

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