3月上旬のマイアサウラが売れ残ったドリアンに困る

 ツイッターで続けている文字数制限140字ちょうど(ただし「」付きなので、実質138文字)の短いお話を毎日1作投稿する活動(リハビリ的な意味もある)。3月前半のまとめ。



「独り身のマイアサウラが、自分はマイアサウラであるための必要条件を満たせていないと嘆くので、君の言う条件は人間が勝手に思い込んでいるだけだと説得する。マイアサウラ界で人間の思うマイアサウラ像がそれほど蔓延っているのか気になったが、どうやら彼女と私がよく会話しているのが原因らしい」(2017年3月1日水曜日)

「魚の幻を見たので時計を新調する。時計屋の店主は海外の人で、“トキハカネナリ”以外の日本語は喋れないらしい。仕方なくドイツ語で会話し、気に入った時計を千二百円にまけてもらう。帰宅して、自分はドイツ語など喋れなかったはずなのにと思うも、トキハカネナリ、考えても無駄なので珈琲を啜る」(2017年3月2日木曜日)

「豆腐は少しずつ頂きなさい、と言っていたおばさまは、大きな豆腐を味噌汁の具くらいの大きさに崩しました。味噌汁の具の豆腐はどうするの? と訊いてみると、それはそのままでいいのですよ、と言われました。私は味噌汁に入っている豆腐しか頂かない主義ですので、その冷奴はどうかお下げください」(2017年3月3日金曜日)

「高い木のてっぺんに猫がいる。強風で大きく揺れ、振り落とされそうになるものの巧みにバランスをとっている。昔のサーカスの映像で、こんな曲芸を見たが、人にできるのだから猫にもできるだろうと考える。夜、枕元で、楽しんで頂けましたか? という声が聞こえ、やはり助けるべきだったと反省する」(2017年3月4日土曜日)

「きれいな夕焼けなので団子を二つ持って丘の上へ行く。懐かしい思い出に浸りたくなったらしい人たちが集まっていて、皆それぞれに夕焼けの効果で記憶を鮮明に甦らせ、ぽろぽろと涙を流している。せっかくの夕焼けが台無しで団子をぶつけたくなるが、我慢してそっと立ち去る。帰ると窓が慰めてくれた」(2017年3月5日日曜日)

「魚を焼くのが上手くなりたい人のための講義とやらを傍から眺めてみる。参加者は熱心に魚をあやし、とろけるような言葉をかけている。ただ焼こうとしても魚が怯えて逃げ出してしまうので、なぜ今までこのような方法が採用されていなかったのか不思議だ。しかし、焼きあがった魚は旨くなさそうである」(2017年3月6日月曜日)

「かしわもち派とさくらもち派による討論会が来週開かれる。私は、かしわもち派に500円寄付してあるのだけれど、さくらもち派の代表が、しょっぱすぎる葉っぱが苦手だという人を否定するようでは、さくらもち派を名乗ることは許さないと発言していたらしく、250円ほどさくらもち派にも寄付する」(2017年3月7日火曜日)

「小学校の通学路に生えている雑草を食べられる雑草に変える。ミフリントを水で5倍に薄めたものを吹きかけると健康の害になるようなものは全て防ぐことができる。軟弱な子供ばかり増えてしまうという声も聞くが、そんなことを言う人間ばかりが生き残ってしまわないよう、活動は続けなければいけない」(2017年3月8日水曜日)

「みかんの空き缶にむいたみかんの皮を入れる。半日ほど放置すると、むくっむくっ、という音がするので、水をそそいでやると、別の種類のみかんができあがる。我が家では、このようにしてみかん代を節約しているのだが、できあがるのが好みのみかんだとは限らない。嫌いなみかんがないのは幸いである」(2017年3月9日木曜日)

「この町で有名な“走るおじさん”だが、誰も名前を知らないし、年齢も知らない。あらゆる家の近くであらゆる時間に目撃されているが、おじさんの家がどこにあるのかもわからない。ひょっとしたら、いつどこで死んでしまっても大丈夫なように一日中走り続けているんじゃないか、と隣の爺さんは言った」(2017年3月10日金曜日)

「ずっと気になっていた小屋に入ってみる。林の出口そばにあるプレハブ小屋で、私が生まれるより前から建っているのだが、外観も内部も綺麗なままである。壁に子供じみた文字でブロントザウルスと書いてあるが、肝心のブロントザウルスの絵は見当たらない。よく見ると“文字で足りる”とも書いてある」(2017年3月11日土曜日)

「考え事をしながら夜道を歩いていたせいか、奥歯の隣に小さな竹が生える。3日もほっておくと、上の歯茎に突き刺さってしまいかねないので、明日にでも病院へ行かなければならない。なにぶん、はじめての症状なので、歯医者に行ったほうが良いのか、普通の病院に行ったほうが良いのかも判断できない」(2017年3月12日日曜日)

「用意しておいた干し肉が何の肉だったのか忘れてしまう。長く放置していたわけでもないのに恥ずかしい。何の肉だかわからないままでは食べる気になれず、申し訳なく思いつつも、知り合いの犬に頂いてもらう。犬はビーバーの肉が好きなんですよ、と言って笑うが、ビーバーの肉でないことは確かである」(2017年3月13日月曜日)

「雪が溶けてきたので空き缶を拾う。雪が人間の記憶を頼りに勝手に生成してしまう空き缶に辟易していたが、最近になって空き缶収集の趣味に目覚めたため、この現象も嬉しくてしょうがない。しかし、土地柄かアルコール類ばかりが目立ち、私の思い出の空き缶はあまり見つからず、引越しを考えはじめる」(2017年3月14日火曜日)

「俺の彼女は世界一で俺の彼女に惚れない奴は馬鹿で生きていく資格がないが彼女は俺の女なので惚れる奴は全員敵だ、とわめき散らす男の頭に八百屋のおじさんがドリアンをぶつけて殺してしまい刑務所に入ってしまった。おじさんが帰るまで私が店を守ることになったのだが、ドリアンが売れ残るので困る」(2017年3月15日水曜日)