ちょっと遠くまで散歩に行ってみると、見知らぬ畑のなかに二羽のタンチョウを見つけた。白鳥なら時期がくれば頻繁に目にするし、我が家の庭に舞い降りることだってあるが、タンチョウとなるとさすがに珍しい。しばらく観察してみたが、こちらを気にする様子もない。相手にされていないのだろう。天才は鳥に懐かれるという、根拠のない謎の思い込みがあるため、これは少しばかり残念である。
もしも、どこかの悪い人が仕掛けた罠にかかっていたのなら、助けてやるつもりでいたのだが、もちろんそんな悪さをする人はいないし、そもそもいくら悪い人間でも、国内希少野生動植物種に指定されている鳥に対してあからさまな罠を仕掛けるなどという法的に危険な行為をわざわざ犯すような輩はそうそういない。よって、助けたタンチョウが美女に姿を変えて我が家にやって来たりもしない。だいたい、私の家の窓からタンチョウが飛び立つのを目撃されれば、私が意味もなくタンチョウを捕獲したものの逃げられた、というシナリオが目撃者の頭の中に描かれるだろうから、私の逮捕でこの話は結末を迎えることになってしまう。
また、美女が我が家を訪れている時点で、いくら他人の生活にさほど興味を示さない近隣の皆様とは言え、「あいつ、ついにこんな田舎にデリヘル嬢呼んだか」と噂になる可能性もある。常に地中を潜行状態の私の世間体は、さらに地球のコア近くまで潜ることを余儀なくされるであろう。
幸いなことに、私の世間体は昨日と同じ程度の深さを潜行中である。これも、タンチョウを狩ることが禁じられているおかげであろう。
- 作者: 小玉ユキ
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