静養日記45 〜僕らはみんな死にながら生きている〜

「知ってる? 人って必ず死ぬんだよ」
「知ってるよ。もう、死んでるんだよ」

 小学1年生の時、クラスメイトによるこんな会話を耳にしたことがある。しかし、いまだに「もう、死んでるんだよ」の意味がわからない。彼らが、いとうせいこうの名作『ノーライフキング』を読んでいたとは思えないので、作中における「死にながら生きるライフスタイル」のことではないだろう。ならば前世的な話だろうか。あるいは、現実はまやかしといった類の意味だったのだろうか。「死を目前にした老女の視点で自分の人生を観察してる気がする」(リチャード・リンクレイター『ウェイキングライフ』より)なんてことを、あいつは考えていたりしたのだろうか。

 あの1995年を目前にした、1993年の4月から1994年の3月までが、私が小学1年生だった時代。田舎の(その約20年後には閉校を迎えることになる)小学校の中でも、とりわけ小さな第1学年という世界の中での会話。私でさえ今よりは悩みが少なく、笑うことも(今と比べれば)多かったであろう時期、私なんかよりも交友関係が広く、上級生たちとも一緒にサッカーなんかをして遊んでいたクラスメイトが口にした「もう、死んでるんだよ」は、宗教的なものとは別に天国や地獄を信じてしまうような小学1年生ゆえの幼い価値観からくる発言だったのか、はたまた、明るいマンガを暗くしたがった世代よりも後の、一見普通に明るいマンガを明るく楽しんでいたはずの世代が1995年前後の空気感に無自覚に侵されていたことの一症例だったのか。

 当時のクラスメイトと顔を合わせる機会もほぼなく、あったとしても、切り出し易い話題ではない。そもそも、そんな会話を覚えてすらいないかもしれない。傍でたまたま耳にした私だけが気になっているのかもしれない。そして、今後もずっと、死ぬまで気になり続けるのだろう。もう、死んでいるのかもしれないけれど。

ノーライフキング (河出文庫)

ノーライフキング (河出文庫)

Mess / Age

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