リンゴ・スターの歌う「赤鼻のトナカイ」が好き

 クリスマスが近いので、どこへ出かけても油断するとクリスマスソングが耳に入ってくる。別に耳に千枚通しを突き刺したり熱湯を注ぎこんでしまうほどクリスマスソングが嫌いというわけではないから良いのだけれど、どうにも幼き日に病気で入院中、小児病棟内で開かれたクリスマスパーティーのことを思い出してしまうので、あまり心地良くは感じられない。齢三十二ともなると、幼少期の記憶という時点で良い思い出も悪い思い出もみな等しく悲しい気持ちを引きずり出してしまうし、しかもその風景が病院ときているのだから悲しくて悲しくてとてもやりきれない、このやるせないモヤモヤを誰かに告げようか、って告げたところで「知ったことか」と返されるだけなのがまたやりきれない。

 小児病棟でのパーティーは、あくまでも子どもたちのためのパーティーだったので、ことさら悲しい思い出が引き出されてしまうのは「あわてんぼうのサンタクロース」や「赤鼻のトナカイ」といったファミリーソングの類である。さすがに山下達郎の「クリスマス・イブ」やワム!の「ラスト・クリスマス」を聴いても病院内の景色が浮かぶことはない。そもそも、後者のクリスマスソングが似合うような情景とは、生まれてこのかた縁がない。それは吉沢亮君のような好青年の役目である。

 さて、クリスマスの華やかな雰囲気や「サンタ=恋人」の図式などよりも明石家サンタのほうに縁がありそうな私がクリスマスソングを浴びて他に考えることは、「赤鼻のトナカイ」のサンタがトナカイに「おまえの鼻が役に立つのさ」と言ったのは、トナカイが自分の赤鼻について悩みはじめてからどれくらいの時が経ってからだったのだろう、ということだ。「いつもみんなのわらいもの」というくらいだから、結構な月日は経っているように思う。サンタのおじさんの一言で「今宵こそはとよろこびました」になってしまうトナカイさんの前向きさは羨ましいかぎりだけれど、それで済むのならばもっと早く言ってあげても良かったんじゃなかろうか。それとも、サンタのおじさんなりに、考え抜いた末の一言だったのだろうか。だとすれば、もっと良い言葉を思いついていても良さそうな気もする。

 考えるに、サンタのおじさんはきっと高倉健が演じているかのような不器用な御方だったのだろう。子供の部屋に忍び込んでプレゼントだけ置いて去っていくというのも、いかにも不器用な健さんキャラの考えそうなことではある。見た目まで健さんでは完全に出所したての人になってしまうが、それをカバーするための赤い衣装とピュアなトナカイさんとも考えられる。お世辞にも似合っているとは言い難いが、不器用で気遣い屋だった健さんには、ひょっとすればナマハゲよりは性に合った活動だったのかもしれない。いつの間にか「サンタ=高倉健」という話になっているが、そんな風に考えれば悲しい気持ちも少しは和らぐかもしれない。

 

I Wanna Be Santa Claus

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