観光非風景論

 ブラックの缶コーヒーをコップに注ぎ、角砂糖を適量加えて飲んでいる。「だったら、はじめから糖分の入った甘いコーヒーを飲みゃあいいじゃねえか、このスカポンタン」という声も聞こえてきそうだが、昨年あたりから急に自分の中で熱を帯びてきた空き缶収集趣味の一環なのである。つまり、缶が欲しいために、普段は飲まないブラックコーヒーを我慢して飲んでいるのである。

 いや、ブラックコーヒーだって、さほど好みではないというだけで、まったく口がつけられないわけではない。だが、あまりに自分の人生が苦すぎるので、最近は余計な苦みを味わいたくなく、放り込む角砂糖の量も、ひょっとしたら「適量」とは言えないのかもしれない。まあ、それはそれで、『ザ・フライ』のジェフ・ゴールドブラムを彷彿とさせるので、憧れの人に近づこうとしているのだと考えれば悪くもない。健康に気を遣い過ぎて、かえって健康を害するタイプの人間なので、このくらいは好きにしたほうが精神にも良いはずである。

 さて、適量とは言えないほどの角砂糖を消費し続けているわけだが、例の角砂糖の歌に関しては、さっぱり情報が入ってこない。知っている人が少ないのか、単に私が相手にされていないのか、後者だとしたら、また人生の苦みを不必要に味わわなければいけないわけで、さらに角砂糖の消費量が増すことだろう。角砂糖の神が、この私になんらかの恵みを与えてくれることを祈る。

缶コーヒー風景論

缶コーヒー風景論