スーパーマーケットのOlympicには、よく行っていた

 平昌オリンピックが開催されたが、私の周囲では、このオリンピックではじめて平昌という名称を知ったという人も少なくなかった。もっとも、さほど知名度の高くなかった場所が開催地となるのも特に珍しいというわけではない気もする。なかには、開催国の中ですら知らない人も多かったなんて都市もあったのかもしれない。まあ、基本的にスポーツ嫌いで、オリンピックに関しては更に好感の持てない要素が多すぎる私は、当然ながらオリンピックの知識も乏しいので、確かなことなんて言えないのだけれど。

 そんな私にとって最も印象深いオリンピックは、生まれてもいなかった1968年のグルノーブルオリンピック(第10回冬季オリンピック)だったりする。正しくは、オリンピックそのものというより、『男と女』(1966年)などで有名なクロード・ルルーシュ監督による記録映画『白い恋人たち』(1968年)が印象深い作品だったと言ったほうが良い。この邦題といい、フランシス・レイによるテーマ曲(名曲です)といい、なにも知らない人にはオリンピックの記録映画だとは思えないかもしれない。

 もうひとつ、グルノーブルがオリンピック開催地として私の印象に残っている理由は、スタントマンのアラン・プリユールが1988年に挑戦したバイクスタントである(『男と女』の主人公アンヌの夫がスタントマンであったこととは関係ない)。オリンピックで使われたスキーのジャンプ台からバイクでジャンプするというもので、物心ついた時からの決定的瞬間マニアである私にとって大興奮の映像だった(ちなみに飛距離は84.3メートルだったらしい)。

 1986年生まれの私にとって、初めて見た自国開催のオリンピックは、1998年の長野オリンピックなのだが、こちらに関して特に印象に残っているのは、開催前からやけに不評の声が耳に入ってきたこと(爆笑問題の漫才のなかで「なんだかんだ言われていたけど、盛りあがったよね」「見ている間は長野ってことを忘れられたもんな」「誰もそこまで長野を嫌がってねえよ!」というやりとりがあったはず)と、スキー滑走競技で転倒者が続出したことくらいである。後者はこれもまた決定的瞬間絡みである。気性の荒いことで知られるアルベルト・トンバ選手が隠し撮りしたカメラマンにシャンパンの瓶をぶつけて流血させたり、しつこいパパラッチに跳び膝蹴りを食らわせたりといった暴行ネタではなく、スキー選手らしく転倒シーンによって衝撃映像番組で紹介されたのは、けっこう珍しいことだったように思う(長野五輪スキー滑走競技に関しては、最も激しく転倒しながら別の種目で金メダルに輝いたヘルマン・マイヤー選手のほうが知られているとは思うけれど)。

 『白い恋人たち』はともかく、他の例から考えるに、どうも私のような人間にとってオリンピックは、なんらかのトラブルや珍事がなければ印象に残らないらしい(実際、日本人に限らず、私はメダリストの名前をほとんど記憶していない)。しかし、笑って済む範囲の珍事なら幸いだが、いくら決定的瞬間マニアとは言え、洒落にならない事故や事件を本気で期待しているわけではなく、それこそ今の時代にミュンヘンオリンピックのような事が起きれば、私の周囲だって穏やかではいられないような事態に陥るかもしれない。ゆえに、「私にとって記憶に残らないオリンピック」というのは、おおいに歓迎すべきことであるのかもしれないのである。

白い恋人たち Blu-ray

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『白い恋人たち』より 「13 jours en France (Orchestre)」

『白い恋人たち』より 「13 jours en France (Orchestre)」