遠くから救急車の音が聞こえるような気がする

 あまり体調が良くない。気圧かなにかのせいで、一日中いやな眠気と気怠さが居座っているのだが、夜になるとあまりの寒さでぐっすり眠ることもできず、ずるずると疲労だけが溜まっていく。こんな時に救急車の音など聞こえると、呼んだわけでもないのに自分が運ばれていくのではないか、と妙な考えに囚われたりする。

 さて、私の住む地域というのは、私が小学生だった頃の最大の全校児童数が30名程度だったことからもわかる通り、なかなかの田舎なわけで、当然人口も多くなく、ほとんどの人間が顔見知りである。だが、田舎とはいっても、北海道の田舎なので、隣の家までの距離が1キロ、2キロなんてのは良いほうで、ご近所さんの家を目視できないような場合も珍しくはない。なおかつ、大半の家が農業を営んでおり、畑やら小麦の乾燥工場やら酪農の場合は牧草地や牛舎といった土地や施設もたくさんあり、実際に住んでいる家は、そういったあれこれに埋もれてしまっていたりもする。

 そんな環境ゆえ、救急車の音が聞こえても、いったい誰の家に入っていったのか、さっぱり分からないことも多い。私の聴覚が認識できる範囲内なので、(仲が良いかどうかは別として)知り合いであることは間違いないはずなのだが、それがどこの家なのかわからないのである。

 幸か不幸か、個々の家の事情が私の耳にまで噂として入ってくるほど他人に無駄な興味を持つ人間が多くもないようで、救急車の謎が解けるのは、それなりに関係の深い相手だったとしても、1〜2週間先だったりする。不謹慎な話ではあるが、亡くなってしまった場合は葬儀の案内が来るので、もっと早く事情が伝わるのだが、やけに丈夫な人が多いのもこの地域の特色のようで、そうそう急な死者は出ない。

 ゆえに、急な死者候補の筆頭は私なんじゃないかという疑念は常に拭えないのである。