確認できない馴染みの景色

 同じ家に住み続けていても、その時期によって部屋の模様が変わったり、経年劣化などによる変化もあるわけで、馴染みの景色というものも知らず知らずのうちに記憶から消えていってしまったりする。

 しかし、家というのは、写真を撮ることも割と多い場所でもあるため、なにげなく撮った写真をあらためて眺めてみたりすると、ちょっとした変化に気づいて、ふと懐かしさがこみあげてくることもあるだろう。

 そんななか、『よつばと!』の風香の言葉を借りれば「思い出の付箋」である写真を撮ることが少なそうな場所として、その人がよく利用するスーパーマーケットというのが浮かぶ。まあ、スーパーに限定する必要もないが、定期的に日用品や食料品を購入する場所というのは、馴染みの景色のひとつでありながら、記念写真を撮ることも少ない。ガラケースマホが普及した現在ならまだしも、もっとも手軽な撮影道具が使い捨てカメラだったであろう90年代半ばくらいまでだと、なんの変哲もないスーパーマーケットでの写真撮影など、なんらかの取材でもないかぎり、なかなかにハードルの高い行為だったように思う。なんとなく犯罪に近いような感覚すらあったかもしれない(不謹慎ではあるが、犯罪そのものである万引きのほうが抵抗が少ないと答える者がいても、さほど驚かない)。

 私が幼い頃、母に連れられてよく行った最寄のAコープもそんな場所のひとつで、もし店内の写真でもあれば、思いがけず涙がこぼれるかもしれないほど懐かしい景色なのだが、当然写真など撮ったこともなく、残念ながら今はもう店自体が存在すらしていない。もし存在していたとしても、店内の様子が20年以上、ほぼ変化なしなんてことはなかっただろう。

 思い出のAコープがあった場所は、現在は別のコンビニエンスストアになっている。たまに足を運ぶたびに、せめて一枚くらい思い出の付箋を残しておいたらよかったなと感じる。

よつばと! 10 (電撃コミックス)

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