お元気ですか あきら君だかやすお君だか忘れたけど

 久しぶりに迷惑メールが届いた。サイトの利用料金が支払われておりませんので云々という特に手の込んだわけではないテンプレートなメールであったが、日常生活において他人から何らかの期待をかけられることの少ない私にとって、たとえそれが「こいつなら騙せるかもしれないな」という悪意に満ちたものであっても貴重な体験と言えなくもないわけで、期待していただけるだけありがたいと考えておくことにする。「ああ、今日は誰かに希望を与えることはできた」と私が少しでも前向きな気持ちになれたのであれば、どこかの悪党の無差別な行為が良い結果をもたらす場合もあるということの証明にもなり、『リーガル・ハイ』の古美門先生が言うところの「少年ジャンプの世界にしか存在しない浅っぺらい正義」(もっとも、近年だと少年マンガの世界においても、そうそう浅っぺらい正義など見当たらない気もする)をいまだに信じているようなおめでたい人間の気持ちを少しばかりへこませることが出来るかもしれず、さらに私は良い気分になることができる。ただし、残念ながら悪党様の期待に応えられるだけの金銭的余裕はないので、感謝の返信メールを送ったりはしない。

 迷惑メールといえば、数年前に質の悪い輩にアドレスが流出してしまったのか、やたらと頻繁に送りつけられた時期があった。その時は、今回のような料金未払い系の内容よりも、あきら君だかやすお君だか名前は忘れてしまったが、病気で余命僅かな青年が遺産を相続したいのでうんたらかんたらという出来の悪い安っぽいストーリー系のものが多く、ほっておいたらこのあきら君だかやすお君はいつまで生き続けるのだろうなあ、などと考え観察し続けたい気持ちも芽生えはしたが、3回くらいメールが届いたあたりで「はよ死ね」という気持ちのほうが強くなってしまい、このまま放置すると私自身が危ない奴になってしまいそうだったので、アドレス変更などの対策をとった。

 あきら君だかやすお君(どちらでもなかった気はするけれど、どうせ本名ではないのだから構わないでしょう)、如何お過ごしですか? 今も元気にありもしない遺産をどこぞの誰かに相続するため、死にかけのまま生き続けているのでしょうか? どうかいつまでもそのまま苦しみぬいてくだされば、私はとても幸せな気持ちになれることでしょう。あなたのような永遠の死にかけでも他人を幸せにすることができるのですから、ああなんて素晴らしき世界。それでは、またいつの日か。