『この西瓜ころがし野郎』(13)

 ラカンバのお百姓さんが腹いせに蹴とばした小ぶりの西瓜は上空を飛んでいたペリカンの口にがぽっとはまり、あわてたペリカンは羽ばたくのを忘れて顎をがっこがっこと揺さぶりながらお百姓さんの頭の上に落下、ペリカン嫌いのお百姓さんは体中を掻きむしりながら、ふと頭に浮かんだ言葉をそのまま叫んでみると、どうしたことか「おのれ西瓜ころがし野郎!」、お百姓さんの叫びはそのままあちこちで跳ね回っている西瓜たちの耳にも飛び込み、どうやら自分たちが潰されたり弾き飛ばされたりしているのは西瓜ころがしの野郎のせいであると気づく者が現れ、西瓜割りの報復としてオランジア海岸沿いの坂道で子供たちを追いかけながら転げ落ちていた西瓜の一団を横目に「おのれ西瓜ころがし」「おのれ西瓜ころがし」と弾むリズムをモールス信号のように駆使しつつ、どこでなにをしているのかわからない西瓜ころがしの野郎の頭をどついてやろうと知恵の実を取り込みつつ野を越え山を越え砂漠や海も越え、しかしながら、西瓜ころがしの野郎が我々の土地の厄介者であることに気づく西瓜はなかなか出てこず、いたるところで西瓜こわがりな人々は増える一方、そんな西瓜こわがりとなった人々も皆一様に口から出るのは「おのれ西瓜ころがし野郎!」、体力を使い果たした西瓜たちは西瓜こわがりの人々によって真ん中の甘いところだけをくり抜かれて栄養にされ、残りはしおっとへたれこんでいるものだから、せいぜい野良生きする者が軽く喉を潤す程度、自慢の景観を損なわれた新鮮町の人々はしゅうしゅうと鼻息を沸騰させながら欅の葉をあぶって作った布で必死に西瓜汁を拭ってまわるのだった。