『この西瓜ころがし野郎』(15)

 いくら西瓜がへばるほど中身がほじくり出されていたからといって、頭を突っ込んでみれば食えるだけの中身はそれなりに残っており、しかも西瓜知りたがりのスプーキーは皮まで食い破らんとする勢いで中身に齧りついており、この場に西瓜知りたがりのスプーキー以外の者がいたならば、あまりの恐ろしさに西瓜の皮ごと西瓜知りたがりのスプーキーの頭を叩き潰したことであろうが、そこは元より珍しもの好きのスプーキーだった西瓜知りたがりのスプーキー、彼の周りに見守る者など一人もおらず、西瓜も西瓜知りたがりのスプーキーの頭も叩き潰されることはなかったのだけれど、西瓜知りたがりのスプーキーよりはるかに奇妙なことに、いくら中身を齧りとっても皮を突き破るどころか、先に西瓜知りたがりのスプーキーの胃が張り裂けそうになる始末で、それもそのはず、西瓜は齧りとられるそばから西瓜ころがしへの憎悪によって赤い血肉が滲み産まれていたわけで、西瓜知りたがりのスプーキーが顎の疲れを癒そうと一息ついている間に、彼の頭が西瓜から取り出すことができないほど血肉を産出、西瓜知りたがりのスプーキーは身も心も西瓜知りたがりのスプーキーとなり、西瓜の皮の中でくぐもった大声で「この西瓜ころがし野郎!」と叫び手術台の部屋から飛び出し、やみくもに皮を掻きむしりながら大通りを走り回ったものだから、他の西瓜たちも呼応して「この西瓜ころがし野郎!」「この西瓜ころがし野郎!」、その声は遠い異国の西瓜ころがしの耳にも届いていたのだけれど、その時すでにこの土地の西瓜たちが西瓜ころがしを追って坂を転げ上がっており、西瓜ころがしの野郎は西瓜の血汁にまみれて逆に坂を転げ落ちている最中で、遠い異国の西瓜たちの叫びなど気にする余裕は当然なかった。