『この西瓜ころがし野郎』(16)

 各地の西瓜たちの西瓜ころがしへの憎悪の叫びが少しばかりも西瓜ころがし本人の耳に届いていないと知るや、西瓜たちは西瓜たちなりの伝達手段によってあっという間に西瓜ころがしの転げ落ちているこの土地の位置を把握し、それぞれがそれぞれの形でこの土地を目指して飛んだり跳ねたり転がったり、ラカンバやリプトニアの住人たちも西瓜が同じ方向目指して飛んだり跳ねたり転がったりしていることに気づくやいなや、誰もが口をそろえて「西瓜ころがし野郎!」と西瓜たちを応援する始末、すると当然、西瓜知りたがりのスプーキーの頭の西瓜もこの土地を目指して飛び上がってしまうものだから、西瓜知りたがりのスプーキーの首から下の身体は西瓜の尻尾のように振り回され、これが実際に西瓜の尻尾であればちぎれたところですぐに伸びてきたことであろう、しかし哀れなことに西瓜知りたがりのスプーキーの身体は西瓜に取りこまれてつつあったものの、いまだに西瓜知りたがりのスプーキーとしての五感を備えていたため、西瓜の勢いに負けて尻尾のような身体が少しずつちぎれ飛んでいくときの痛みもしっかりと感じさせられるのだからたまらず「この西瓜ころがし野郎!」、けれどもその苦悶の叫びは西瓜の皮に吸収され、声どころか西瓜知りたがりのスプーキーの悲痛な思いさえ外に漏れることができず、代わりに西瓜自身の西瓜ころがしへの怨みと結託して世にもおぞましい西瓜ころがし憎みの化け物と化しつつあったのだが、それもまたこの土地で転げ落ちている最中の西瓜ころがしには知る由もなかった。