一生幸せでいたければ、釣りを楽しんだ場所のことは詳しく知らないままでいなさい。

 我が家から車で20分ほどの距離にある川では、たまに釣りを楽しんでいる人の姿を見かける。もしかしたら、真剣すぎて楽しめていない可能性もあるが、それほど釣り人の魂をくすぐるような魚がいるわけでもないだろうし、おそらく最も身近な釣れる場所があそこしかないだけなのだろう。

 私は釣りは趣味ではないし、特に知識があるわけでもない。そもそも、実際の釣り経験は小学校の遠足で半ば強制的にやらされた一回のみで、なんとなく中古で購入した釣りのテレビゲームすら、さほどやり込んでいない。ゆえに、あの川で釣りを行う人がいる理由など、そう何パターンも想定することはできないのだが、どうやら釣った魚を刺身にして食している者もいるらしいと聞いた時には、さすがに「なんと物好きな……」と思わずにはいられなかった。

 上記の通り、私は釣りに詳しいわけではない。釣り人の精神やマナーなんてものも、釣り人ではない者が常識的な範囲内で想定しうる程度のことしか思い浮かばない。しかし、釣りには詳しくなくても、あの川がどういう川なのかは、それなりに頻繁に近くを通り過ぎる者として、ある程度理解しているつもりである。いや、川について知っているというより、川を囲む畑でどういった作業が行われているかについて知っているというべきだろうか。

 とはいえ、別に周囲の畑でとんでもないことが行われているわけではない。特に珍しい作物が栽培されているわけでも、実験的な農法が取り入れられているわけでもない。だからこそ、それらの畑では(適度な範囲において)農薬が使われているだろうし、牛糞等が肥料として撒かれていることもあり得るだろう。

 たまに目にする釣り人たちが、そのあたりのことを理解しているのかが気にかかる。どうも、畑の広がる近隣地域の人ではなく、市街地に住む人が多いらしいという話も聞く。だとすると、釣りには詳しくても、畑のことに関しては詳しくない可能性もある。まあ、大きな健康被害が出るほどの汚染されているわけではないだろうから、私があれこれ心配する必要もないのだろうけれど、釣り人たちが後で畑のあれこれについて知ったとしても、それでなお釣りを楽しむことができるのかどうか、どうしても考えてしまう。

オーパ! (集英社文庫)

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川のぬし釣り

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