君が育てたサボテンは小さな実をつけた

 久しぶりにサボテンの実(ドラゴンフルーツ)を食す機会があり、皿に盛りつけたところで最後に食べた修学旅行(高校時代)での沖縄の食事を思い出した。あの頃は、サボテンの実ではなく花について歌った楽曲が主題歌だったドラマのヒロインが、まさか“ひとつやらかした”なんて事になるとは思ってもいなかった(別にファンでもなかったけれど)。

 私のような人間が高校生活を謳歌できるはずもなく、それゆえに修学旅行なんぞも全くもって楽しい想い出なんかではない。気心の知れない連中と一緒くたにされ、あげくスケジュールまで管理された六日間など刑罰のようなもので、しかも日程の中には、USJやらディズニーランドといった私に似合わぬテーマパークが組み込まれており、USJでは入口付近のベンチで向かいに見える迷子センターでの親子の感動の再会を眺めて時間を潰し、ディズニーランドにいたっては、20分ほどで体調不良を装い、ひと足先にホテルへ戻った。

 なかでも沖縄は特にろくなことがなく、戦争体験講話では暑くてくらくらしていたのに、沖縄の人には寒かったようで「生徒さんたち寒いんじゃないですか?」などと余計な気を遣って室内を暖められてしまうし、海中を見ることができるグラスボートでは即座に船酔いして、下なぞ向こうものなら胃の内容物をリバースすることになるので、ひたすら斜め上を凝視し続けるはめになった。

 また、どうにも沖縄の食物が身体に合わず、計四度にわたる沖縄での食事において、口にできた数少ない食物がサボテンの実だった。味は西原理恵子先生が『鳥頭紀行』のベトナム編に記していた通り「こんにゃくゼリーりんご味」風で、弱った胃に優しい気もしたので、ホテルのバイキング朝食では、サボテンの実だけを皿に盛った。グラスボート体験は沖縄二日目だったはずなので、仮にリバースしたとしても、私の胃の中にはサボテンの実くらいしか入っていなかっただろう。もし、再び沖縄を訪れることがあったならば、その時は豆の缶詰かなにかを持参しようと心に誓った。

 幸いと言うべきか、あの日以来、沖縄には行っていない。ただし、映画学校の同期生のなかで、比較的交流の多かった相手(とにかく私は人との交流が薄い人間なので、相手からすれば、ちょっと会話しただけの奴くらいの印象かもしれないが)は沖縄出身だった。

サボテンの花

サボテンの花