隣人のお姉さんは「広い意味でサービス業」だと言った

母国豊胸(ぼこくほうきょう)

 久しぶりに会った母親が豊胸していたりすると、大変反応に困ることになる。その事から、懐かしの場所の変化が怒りとも悲しみとも喜びともつかないなんとも形容し難い感情にさせられるような事案を意味する。例:「母校がラブホテルになってるなんて、まさに母国豊胸の思いだよ」

 

 

 札幌に一年ほど住んでいたことがあるのだが、その時の住所を調べてみると、どうやら現在はSMバーになっているらしく、まさに母国豊胸の思いである。住んでいたアパート自体が取り壊されたのか、建物が再利用されているのか、そもそも本当にあの場所にSMバーがあるのかどうかもわからないのだけれど、たしかに学生が好んで住む場所とは言い難かったし、同じアパートに住んでいる人たちの多くが夜のお仕事の方だったので、そうおかしな話ではないのかもしれない。コンビニも近く、公園が近かったわりに騒がしくもなく、家賃も手頃だったので即決した住まいだったが、高校を卒業したばかりの未成年男子に勧める物件だったかと言えば、たぶん違ったように思う。もっとも、その約二年後に明らかに裏の匂いのするおじさんから同業者と勘違いされた身なので、一人暮らしデビューの時点で微かに裏の匂いや夜の匂いが漂いはじめていた可能性も否定できない。

 それにしても、仮に建物がそのまま再利用されているのだとすれば、私がかつて生活していた部屋で、現在は見知らぬ方々が鞭をふるったり、鞭で打たれたり、多種多様な辱めを受けたり、罵られたりと裏だし夜だし地下でもある世界が繰り広げられているのかもしれず、これを母国豊胸と言わずして何と言おう。まあ、SMクラブではなくSMバーらしいので、SMに関する話を肴にお酒を楽しむのが主であって、実際のプレイ的なものはそうそう行われていないのかもしれないが、私は酒を飲まないので(当時はまだ未成年だったこともあるが)、当然あの部屋には一年近く酒と名のつくものは置かれたことがなく、それが今では毎日のように多様な酒が行き交っているわけで、それだけでも大きな変貌ぶりである。野菜炒めと野菜スープと野菜ジュースばかり眺めていた壁たちも、あの頃ほど退屈はしていないだろう。

 そういえば、部屋に戻る帰り道にキャバクラ嬢の名刺らしきものを拾ったこともある。裏に手書きでメールアドレスが書かれていたのだけれど、折り曲げられて路上に捨てられていたところを見ると、貰った男が良い思いをしたとは考えにくい。そのアドレスに連絡してみるほどの度胸はなかったが、二人の間で洒落にならないような事態が起きていなければいいなとは思う。