注意:特に食事中の方

 少々汚い話になるが、小学校2年の時、同級生のN君が「自宅の便所で小さなカブトガニのような生き物を見た」と報告してきたことがあった。N君の家の便所は汲み取り式、いわゆる「ボットン便所」というやつで(冬場の寒さの影響もあって、北海道の田舎では今もそこそこ存在している)、夏場は油断するとハエが大量に発生する危険性は高いし、ゴキブリのほぼ存在しない北海道とはいえ、過度に不衛生な便所ならば多くの不愉快な下等生物が蠢きはじめることもあるだろう。しかし、「小さなカブトガニのような生き物」とは何なのか。いや、何なのかわかっていれば、N君だってこんな曖昧な言い方はしない。なんだかよくわからないが、N君の目には「小さなカブトガニ」に見えたのだろう。もちろん、ハエなどの常識的な範囲内の生きものが、たまたまそのような形に見えただけという可能性のほうが高いのであるが、全校児童を総動員しても30名弱でしかない秘境小学校のたった6名しか存在しない2年生たちの未発達な脳では納得のいく答えなど導きだせるはずもなく、口と態度の悪い者がN君を馬鹿にしはじめたり、比較的冷静な者が先述のような見間違い説を提唱してみたり、そこで引き下がれば良いものをN君が「ハエとかそんな感じじゃなかった」と“未知の生命体説”を断固主張しはじめ、私は「今さら、朝から余所の家の便所の話など聞きたくないわ!と叫んだところで話はこじれるばかりだろうなあ」なんてことを思いながら、なるべく不毛な言い争いから距離を置こうとしていたものの、残念ながら6名しかいない教室では、そう上手くいくはずもなく、「お前はどう思うんだ」などと意見を求められ、つい苛々して「お前の家の汚い便所の話なんて聞きたくない!」と結局本心をぶちまけてしまったのだが、案外効果があったようで、そろそろ担任がやってくる頃だったこともあるが、そのまま話は収束した。

 中学卒業以降、N君とは会っていないが、彼はこのことを覚えているだろうか。汚い話に苛立っていたとは言え、かなりきつい言い方になっていたはずだから、覚えているとすれば今なお私に怨みを抱いている可能性もある。もしかすると、家の便所に生息する奇怪なカブトガニ状の生命体を手懐けたN君が復讐に来るかもしれない。そんなのは、カルト・ホラー映画『吐きだめの悪魔』や井口昇監督の『ゾンビアス』並にばっちい復讐劇になりそうで想像もしたくない。まあ、まったく現実的ではない内容なので想像しなければ良いだけの話なのだが、復讐するにしても、便所に関連した復讐方法だけは選ばないでほしいと切に願う。

 

復讐之手引―恨みを晴らすための実践的方法

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