タイムマシーンで風邪に気付いた3日後にいこう

 耳の奥が痒くなり、3本ほどの綿棒を消費するも、あまり気持ちよく解消されない。もっと若く経験不足だった頃であれば、執拗に耳の中をほじくりまわし、じくじくしたり出血したりということもあったが、30年以上この身体で生きてきたので、おそらくこれは熱が出る前兆、つまり風邪のひきはじめなのだろうと判断することができる。考えうるだけの風邪に効果的なあれこれを余力の限りを尽くして投じた甲斐あってか、今のところ深刻な病状には至っておらず、ちょっと熱があって身体がしんどい程度で済んでいる。しかし、これが本当に余力の限りを尽くした甲斐あってのことなのか、はたまた何もせんでも重症化しない程度の弱い風邪だったのか、専門的な知識が豊富なわけでもなければ設備を持っているわけでもない私には判断できない。余力を残したまま休んでいたほうが良かった可能性もある。タイムトラベルを可能にする技術が開発されたとしても、厳しい規制が敷かれるのだろうが、風邪のひきはじめを察知するごとに、どの程度の対策が最も効果的なのか探るのは国民の権利として保証しておいてほしい。

 風邪といえば、小学生の頃の私はプールに入りたくないがゆえに、何度も水泳の授業を仮病によって回避している。そうまでしてプールを避けていた理由は、学校でただ一人カナヅチだったから(全校児童が30名程度だったせいか、カナヅチ仲間と出会えなかった)というのもあるが、なによりプールの衛生状態が信用できなかった。頭に血ののぼりきった阪神ファンでさえ、一時の道頓堀に飛び込めば何人かは重大な健康被害を被ったらしいが、小学校の雑に管理されたプールの衛生状態なんぞは道頓堀とさほど変わるまい。「どうしても私を泳げるようにしたいのならば清潔なプールを用意しろ」と訴えたことまであるくらいだ(一笑に付されたので末代まで怨むつもりである)。今よりも貧弱だった小学生の頃の私が、回避できなかったプールの授業によって何らかの健康被害を被っていなかったのは奇跡的なことであり、もしもあれ以上プールに放り込まれていれば、きっと『蔵六の奇病』みたいなことになっていたであろう。そんな自分の姿を見るのは恐ろし過ぎるので、仮にパラレルワールドが覗ける技術が開発されたとしても確認しようなどとは思わない。ゆえに証明することもできないが、私を蔵六のような姿にさせかけた当時の教師どもは、ただちに賠償金を支払うべきなのである。

蔵六の奇病

蔵六の奇病