3~4ヶ月に一度、非常に緊張しながら口を開ける

 「歯医者での楽しみは女性歯科衛生士の身体が密着してくること」などと言ってのける者がいるようだが、倫理的な問題以前に、歯の治療中にそんなことを楽しむ余裕があることに驚く。私はもう何年も治療自体はされておらず、定期検診とそのたびのクリーニングをやってもらっているだけだが、それでも何やらちゅいーんと音をたてている器具で普段の歯磨きだけでは落ちにくい汚れを落としてもらっている際、油断して「へっくしょん」などとやってしまって落としてはならない血肉まで削ぎ落とされてしまったらどうしようなどと想像してしまうわけで、流血の惨事を防ぐためにも、こちらは可能な限り適切な姿勢をとり続けなければいけない。「少し顔を横に向けてください」といった指示も聞き漏らしてはいけないし、慌てず騒がず速やかに顔を横に向けるため、集中力を切らすわけにもいかない。そんな緊張状態のなかでも、いやらしい触れ合いに心躍らせる余裕を持つ人間というのは、おそらく本人たちが思っている以上に助平な人種である。

 だいたい治療ともなれば、相手の手には注射器やら歯を削ったり抜いたりする道具が握られているわけで、下手な行動をとれば刺してはいけない場所に刺されたり、削ってはいけないものを削られたり、抜いてはいけないものを抜かれたりする危険性が充分にある。そんなことも想像できないのであれば助平である前に相当の阿呆であるし、想像できていてなお卑猥な楽しみに耽るというのであれば助平である前に病的なマゾヒストの可能性がある。そういった方は『リトルショップ・オブ・ホラーズ』のような歯医者にかかることをお勧めする。

 私は今のところ、削ぎ落としてはいけないものまで削ぎ落とされてしまったことはないので、歯科衛生士に一線を越えさせてしまうような迷惑行為はしていないはずである。緊張状態が続くゆえに、定期検診に向かうのは良い気分では決してないが、極端に痛い思いをしたこともない。ひょっとすれば、歯医者で痛い思いをしたことが多い人というのは、歯医者さんから好ましく思われていないタイプの人なのかもしれない。

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