ある犯人を追っていると近くに潜伏していた別の事件の犯人が銃撃してくることもあるらしい

 新聞を読んでいたら「2017年のブラジルの殺人被害者数が6万5602人に達した」という記事が目に入った。殺人発生率は過去最悪の人口10万人当たり31.6人(世界銀行によると2016年の日本だと0.3人、アメリカでさえ5.4人)、だいたい一時間に7件を超える殺人が発生している計算になるらしい。あくまで殺人被害者数なので、殺された疑いがあるというだけの場合は含まれていないだろうし、当然のことながら事故死は無関係である。警官が犯人を射殺した場合も殺人事件とは言い難いから含まれていないだろう。たとえ、完全降伏状態の犯人を車の裏に引きずっていって射殺したような場合であっても(実際にそういったケースの映像を見たこともある。1995年のブラジル・リオデジャネイロでの事件である)。

 そういえば、かつてはレンタルビデオ店のホラーコーナーの片隅で禍々しいオーラを放っていた悪趣味系ビデオの金字塔である『デスファイル』シリーズも「世界中を取材」などと謳ってはいたが、基本的にはブラジルと東南アジアを行ったり来たりしている印象で、逆に言えばブラジルと東南アジアの事件現場を2~3週取材するだけで90分程の悪趣味ビデオが制作できてしまっていたのかもしれない。まったく誇れることではないし、不謹慎極まりない話でもあるけれど、悪趣味系市場においては、ある意味で「稼ぎどころ」だったのだろう。禍々しさに引き寄せられていた私のような人間がとやかく言えたことでもないけれど。

 さて、ずいぶんと幼い頃からテレビの衝撃映像特番を欠かさずに観てきたわけだが、ブラジルをはじめとした治安の良くない地域での人質籠城事件の映像が大抵犯人射殺(しかも、かなり荒っぽい形で)によって幕引きされていることは、嫌でもすぐに気づいてしまうもので、その理由まで深く考えることは無意識に避けてきたのかもしれないが、ひょっとすれば一つの事件に時間などかけていられないからなのかもしれない。実際、「硬直化を嫌った警察は……」といったナレーションもよく耳にした。上記の通り、おそらくこういったケースで射殺された犯人は「殺人事件被害者数」には含まれていない。

 そんなブラジルのスラム街での銃撃戦を専門に取材しているカメラマンも存在して、かつてTBSで放送されていた『衝撃の映像クラッシュ』シリーズにおいて何度か紹介されたトニー・カストロ氏もその一人である。20年ほど前に紹介された時に20代後半の年齢であったが、やっていることがやっていることなので、30代、40代を迎えることができたのかどうかは怪しい。しかし、存命であっても、何らかの使命感なのかスクープ中毒とでも言うべき精神状態だったのかはわからないけれども、放送当時すでに何度も死にかけていたトニー氏がそう簡単に仕事を辞めているとも思えない。20年の間にブラジルの治安が劇的に改善されていれば良かったのだが、新聞記事の通り、殺人発生率は過去最悪で銃器が使用された割合も72.4%に達するという。トニー氏が取材熱を掻き立てられてしまうような事件は増える一方のようである。