そっちの臓器は美味いぞ

 こちらの精神面の健康状態などお構いなしに次々と舞い込みやがる面倒事のせいでストレス性の胃腸炎を患い、胃が痛くてたまらないものだから、ただでさえ根性と共にひん曲がった背筋が余計にひん曲がり、ただでさえ日本人成人男子の平均身長に届くか届かないか程度の背丈もさらに縮こまって、視線の高さなどはおそらく150センチ台を浮遊する有様で、貧相・貧弱・虚弱、あらゆるみすぼらしさを纏いながらぐえぐえ唸っていたものの、教師の言う事は聞かないが医者の言う事には従うためか、比較的回復は早かった。今ではぐえぐえ唸ることに終始し読まずに放置していた分の地元新聞に目を通すだけの体力も取り戻したわけだが、私がぐえぐえ言っている間、やけにクマの出没情報が報じられていたようで、私がぐえぐえ言っている間も変わらず走っているのか歩いているのか止まっているのかさえ判然としないスピードでランニングを続ける名も知らぬおっちゃんがいつクマに襲われるのだろうかと近所の方々が噂しはじめる始末。一見すると喰われるところなどなさそうに思えるほど痩身のおっちゃんだが、クマは臓物を好んで喰らうようなので、おっちゃんが臓物を全て抜き取られてなお走り続ける生ける屍的な怪異でもない限り、クマの餌食になる可能性は否定できない。クマが虎視眈々とおっちゃんを付け狙っているのだとしたら、おっちゃんのランニングコース付近に住む私をはじめとした近隣住民にとっては迷惑このうえなく、わざわざ二つも三つも町をまたいでランニングすることもなかろうと誰か言ってやるべきなのかもしれないが、いかんせんどこの誰だかわからんので、いかにアウトローな農業従事者の多い地域とはいえ、話しかける勇気のある者はそうそういない。体力も戻ったことなので、「熊出没注意」の看板でもこしらえて家の前に立てておこうかとも考えている。