緊張の夏

 エアダスターでも吹き飛んではくれなかったオニグモの抜け殻は、今なお2階窓の正面の電線にぶら下がったままで、ただでさえ安定しない私の精神状態をさらに不安定にしている。気候も不安定なうえ、雨が降れば羽虫も増え、更にこの季節の夜中は油断しているとどこかからドーンと花火らしき音が聞こえてきたりもして、華やかな祭りごととは縁遠い私は内戦でもはじまったのかといちいち驚かなくてはならず、合法的に処方されたお薬なしでは、髪の毛をむしったり身体を掻きむしったりして血まみれになっていたかもしれない。幸い、今のところは不安定な精神状態のまま髭剃りを断行したがゆえの出血だけで済んでおり、バンドエイドで対処できる程度の傷なので大きな問題には至らない。心配してくれる人もいないので、誰かを心配させてしまうことを心配する必要もない。

 しかし、いくら北海道とはいえ、7月だというのに寒がりの人間がストーブを使用してしまうような天候はどうにかならないものだろうか。寒がりどころか暑がりの人間は常に不必要な緊張感を持たなくてはならない。足を踏み入れた先が思いがけず暖められていた、なんてことも起きてくる。実際、先日迷いこんだ百貨店はやけに蒸し暑かった。外が多少肌寒いからといって厚着などしていたら酷い目に遭うのである。

 静養中の身であるから、あまり出歩くこともないのが幸いであるが、静養中の身であるからこそ定期的に訪れなければいけない病院という場所がまた危険地帯で、充分すぎるほどに暖められた待合所で長々と待たされでもすれば、治療しに行っているのか悪化させに行っているのかわからない。前々から述べていることだが、公共施設では暑がり用と寒がり用の待合場所を分けて設置してほしいものである。