流れるポカリの汗は決して腐らない

 とある場所でふと聞こえてきた見ず知らずのまっさらな他人の会話。その中に出てきた「ポカリを腐らせたような女」というフレーズ。会話のすべてを聞き取れたわけではないけれど、どうやら出会ったばかりの女性について一方がもう一方にあれこれ語っているらしいことは推察できた。聞き間違えかもしれないが、他に近しい言葉も思いつかない。「女の腐ったような」であれば、その言葉が蔑視的であるかどうかについてはともかく、言わんとしていることはわかる。しかし、「女の腐ったような」はむしろ男性に対して使う言葉だろう。女性に対して「女の腐ったような奴」と表現するのは、倫理的な問題以前におかしい気がする。腐っていようがいまいが女性であることには変わりない。彼らは出会った女性について話していたはずだから、やはり「女の腐ったような」という言葉が会話に登場するとは考えにくい。かといって「ポカリを腐らせたような女」なんて言い回しもまた、倫理的な問題以前に何が言いたいのかよくわからない。10年ほど前に「35歳を過ぎると羊水が腐ってくる」と発言して炎上(当時はまだ多くの批判が寄せられることを「炎上」とは表現していなかったはず)した某有名女性歌手がいたが、そういった類の意味だったのだろうか。だとしても、これもまた倫理的な問題は別として、「ポカリを腐らせたような」が「羊水が腐ったような」の言い換えとして適当といえるのだろうか。そもそも「腐らせた」とはどういうことか。本人自ら進んでそうしたかのような言い方である。ひょっとして、文字通りの意味でポカリスエットを腐らせた女性がいたのだろうか。だとすれば単に管理能力の低い女性の話になるが、どうにも話の流れは知り合った女性の容姿や印象について語っているようであり、「ポカリを腐らせたような」は具象ではなく抽象なのだろう。

 などと数日が経過した今でも気にはなっているのだが、公共の場で、おそらくは侮蔑的な意味で「ポカリを腐らせたような」などと口にする者と関わりを持つのは危険だと思うし、そもそも仮に相手が清廉潔白な人物だったとしても、見ず知らずの相手の会話に首を突っ込めるほどの図々しさもなければ高度なコミュニケーション能力も持っていないので、謎めいたフレーズの真意を私が知ることは永遠に訪れないだろう。