狂夢期が来たりて笛を吹く

 ひょっとすれば親族を除けば最も長い付き合いの相手となっているのかもしれない精神的不具合は、処方されている薬で以前よりは抑えられているとは言え、天気が悪いと嫌な記憶が次から次へと蘇ってきてしまうのは相変わらずで、常に心の片隅どころか中心近くに居座り続ける存在感の強い黒記憶(造語)たちとの付き合いだけでも大変なのに、せっかく奥底のほうにしまっていたはずの、ちょっとした黒記憶たちが調子づいて最前列へ割り込もうとしてくるのだからたまらない。2、3歳の頃の誰にでも経験がある程度の恥ずかしさや悲しみまでもが、いまだに当時の感覚のまま蘇ってくるのは、さすがにどうにかならないものか。まあ、どうにかできるものなら、とっくにどうにかしているはずなのだから、そう簡単にどうになかなるものではないのだろう。

 このような状態が長引くと、現実の記憶だけではなく、未体験のはずの嫌な出来事が悪夢という形でじわじわ苛んでくる。何度か述べてきた「狂夢期(くるむき)」(もちろん造語)というやつである。昨日も、食事に誘われて飲食店に向かうと、なぜか一人分だけ席が足りなくなり、気を遣って私が率先して参加を辞退して帰宅の途につくという、地味に嫌な夢を見てしまった。幸か不幸か、私が食事に誘われるなんてことは元々可能性の低い現象だったうえに、故郷に戻って来てからは更に起こりにくい現象となったため、この悪夢が予知夢となる可能性も非常に低いと言える。なんなら、万が一に誘いを受けた場合も、余計な悲しみを味わうのを防ぐために、なにか当たり障りのない理由をつけて断るべきであろう。

 こんな調子なので、絶対に観るべきであるはずだが、かなり精神的にきそうな映画『ジョーカー』の劇場鑑賞をまだ躊躇しているのである。

悪魔が来りて笛を吹く (角川文庫)

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  • 作者:横溝 正史
  • 発売日: 1973/02/20
  • メディア: 文庫
 
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