出会わないんです。

 街中でたまたま知人に出会う確率というのは、一般的にどの程度のものなのだろう。どうにも、私の場合は一般的な確率よりも低いような気がしてならない。「友人」に限定してしまうと、はたして相手は私を友人と思ってくれているのだろうかという精神に良くない疑念が生じてしまうので「知人」という当たり障りない表現にしてみたが、それでも「よくある」どころか「たまにある」とも言えないほどしか経験がない。避けられている可能性もあるが、それなりに警戒心を持って行動しているつもりなので、こちらから話しかける勇気や図々しさはなくとも、視界の端に映り込むことくらいならありそうなのだが、それもない。心の病を悪化させないためにも、避けられているという可能性を高く見積もるよりも、単純に出くわすことが少ないと考えたほうが良いだろう。

 しかし、日本映画学校在籍時は頻繁に渋谷のタワーレコードを物色していたのだが、ここで映画学校生と出くわしたことが一度もないのは不思議である。映画学校生はタワーレコードを訪れないのだろうか。映画ソフトの品揃えも豊富なので、そんなことはないと思うのだが……。いくら私がただでさえ人気の少ないアンビエントアヴァンギャルド音楽のコーナーに張り付いていることが多かったとはいえ、フロア間の移動の際に他の誰かを目撃くらいしていても良さそうなのだが、結局一度もそんなことはなかった。著名人らしき姿を目にしたことは何度かあるのに、もっと近い存在のはずの知人との遭遇はないのである。避けられている疑惑が高まるが、精神の健康のためにも、やはりなぜか出くわすことがなかったと考えるべきである。

 地元に戻って来てからは、私自身がなるべく知人と出くわさないような時間帯や場所を狙って行動しているため、偶然の顔合わせが少ないことも気にはならない。それに、10年以上会うことのなかった、小学校~高校時代のかつての知人たちのなかには、判別不能なほど老けこんだり変貌してしまった者もいるようなので、視界の端に紛れこまれても気づくことができない。ただし、こちらでよく利用する書店の店員さんに別の場所で出くわして声をかけていただいたことが2度ほどある。店員に顔を覚えられるのは、常連よりも厄介客の場合が多いなんて話も聞いたことがあるので不安だが、それなら話しかけられることもないはずだと信じたい。書店自体がそう多くない土地なので、行けなくなるのは困るのである。