松とパインとリンゴにまつわるシベリアを絡めたムッシュ村上の話

 特に好物というわけでもなければ親の仇のように敵視しているわけでもないので、日常においてパイナップルに意識を向けることはさほどない。だからこそ、ふと目に入った表記が「パイナップル」ではなく「パインアップル」だった場合、ちょっとした特別感に浸ったりするのは、私個人のどうでもよい嗜みである。

 「パインアップル」という表記で思い出すのは、『いだてん~東京オリムピック噺~』にも登場した元帝国ホテルの顧問でもあるシェフ・村上信夫氏(通称・ムッシュ村上。ドラマでは黒田大輔さんが演じた)が、シベリア抑留中に戦友が最後に口にしたいと言ったパイナップルが手に入らず、リンゴをパイナップル風の味と形に調理したというエピソードで、私はこの話をフジテレビの『奇跡体験!アンビリバボー』で知った。CM前の過剰な引っ張りなども含めた番組全体の演出のトーンがだんだんと肌に合わなくなっていき、今ではほとんど視聴することがなくなってしまったが、高校を出るくらいまでは割と楽しみにしていて、思い返せば『いだてん』の主人公でもある金栗四三氏を知ったのもこの番組だった。日本テレビの『世界まる見え!テレビ特捜部』と並ぶ、私にとっての二大「雰囲気が変わってしまって残念な番組」である。

 それはさておき、パイナップルが「パインアップル」とも表記される理由だが、単純にスペルが「Pineapple」だからで、松ぼっくり(=「Pine」)に似た形のリンゴのような甘さのフルーツということで「Pineapple」らしい。日本語での表記の差はちょっとした呼ばれ方の違いというだけで、深い意味があるわけではないらしい。ムッシュ村上のエピソードが元で「アップル」をはっきり表記するようになったとかではないのである。ついでに言えば、ピコ太郎の「PPAP」ともたぶん関係はない。

 シベリア抑留に関しては、捕虜たちの栄養を補うために松ぼっくりを元にした飲み物が配られたなんて話も聞いたことがある。ムッシュ村上氏が口にしたことがあるかどうかは知らないが、味としてはとても飲めたものではなかったらしく、仮に口にしたことがあったとしても料理人としてプラスになったとは考えにくい(ただし、栄養補給としての効き目はあったらしい)。いずれにせよ、味見してみたいものではない。

 考えてみれば、松の木に近づくような機会もなくなったので、松ぼっくりも久しく目にしていない気がする。まあ、視界の端に映り込んだとしても、まったく気にとめていないだけかもしれない。パイナップルと違い、無料でもらったとしても困るだけなので気にかける必要性がないのだから当然とも言える。松ぼっくりから得られる栄養を無視できなくなっているのなら、こうしてブログを書き散らかす余裕もなくなっているだろう。

いだてん 後編 (NHK大河ドラマ・ガイド)

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  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2019/05/31
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