『空にかたつむりを見たかい?』 第7回

 ついでに、僕が企んでいることも、こっそり白状しておこう。

 僕が三歳のころのことだ。

 母さんが、家から四百メートルほど離れたところにある川まで散歩に連れていってくれた。よく晴れた日だったけれど、前日までは大雨だった。だから、道路はまだ少し濡れていた。

 川といっても、浅くて汚い川だ。防風林のすぐ脇にあるのだけれど、流れもほとんどない。昔は魚もいて、獲って食べることもできたらしいけれど、このころはもう、ドブと大差ない。でも、おたまじゃくしがたくさんいて、母さんは、それを見せるために僕を連れてきたのだ。おたまじゃくしは水質の悪化に強いと教えてくれた。かたつむりも何匹かいたけれど、汚い水の中で元気に動くおたまじゃくしが妙に面白かった。

 しばらくおたまじゃくしを眺めた後、母さんに「そろそろ帰って晩御飯にしよう」と言われ、手をつないで帰ろうとした時だった。今まであまり気にしていなかった、川の縁にへばりついていた少し大きめのかたつむりが、ふわりと浮かびあがり、そのまま防風林の中へ凄い速さで飛んで行った。

 びっくりして防風林の方を向いて固まっている僕に、母さんが「どうしたの?」と訊いた。僕は、「お母さん、かたつむりって飛ぶの?」と言った。

 母さんは「え? かたつむりが飛んだの?」と言い、「もし、そうなら、すごい発見だね」と笑った。

 そして、「アユムが発見者なんだから、たくさん勉強して、その謎を解いたらいいよ。それまでは他の誰かに話したら駄目。横取りされたら困るでしょ」と言って、僕の頭を撫でた。

 空飛ぶかたつむりの謎。

 僕が今回、閉校記念式典の映像制作に便乗して企んでいるのは、あの日見た空飛ぶかたつむりの姿をカメラに収めることだ。