ところで、国島先生の「なにか良くないことの前触れ」という発言だけれど、カマドウマはたくさん出たし、虻や蝶はたしかに例年より少なかったかもしれない。でもそれが、その年に限ったことだったかどうかはわからない。
実際、ネットで「カマドウマ 大量発生」だとか「虫 少ない」といったワードで検索すると、そういった過去の記事が何件もヒットする。たとえば、二○○五年の夏にも、蜘蛛がやたらと多いように感じた人がいて、ブログで「何かの前触れでは? もうすぐ世界は終わるのかも」と記していた。二○○五年に世界が終わっていたら、今、僕はこうして話をしていない。
もちろん、二○○五年にも、様々な出来事があった。件のブログを書いた人が、「世界の終わり」と結び付けそうな出来事だけを選んで列挙してみよう。
三月二十日 福岡県西方沖地震
三月二九日 スマトラ島沖地震
七月七日 ロンドン同時爆破テロ
七月二三日 エジプト同時爆破テロ
他にも大きな災害や事故などが色々あった。でも、そんなのは、二○○五年に限った話ではないし、ひょっとしたら、もっとちゃんと調べれば、むしろ二○○五年は重大な事件・事故は少なかった年なのかもしれない。
「何してるんだろうね、国島先生」
「よそでも何か騒動起こしてなけりゃいいけど」
異動になった先生たちは、数年、あるいはもっと長い間、行事ごとに顔を見せに来たり、電報が送られてきたりしているのだけれど、国島先生はあれきりだった。
「まあ、かたつむりのことは、撮影の合間合間に暇を見つけてって感じでいいよ」
「じゃあ、基本的に、式典の映像以外は、あたしのやりたいことを優先しちゃっていいんだね」
ちょうど食事を終えたマリサが、今日一番の笑顔で言った。笑顔なのにちょっと怖い、なんてこは当然言えない。