『空にかたつむりを見たかい?』 第11回

 ところで、国島先生の「なにか良くないことの前触れ」という発言だけれど、カマドウマはたくさん出たし、虻や蝶はたしかに例年より少なかったかもしれない。でもそれが、その年に限ったことだったかどうかはわからない。

 実際、ネットで「カマドウマ 大量発生」だとか「虫 少ない」といったワードで検索すると、そういった過去の記事が何件もヒットする。たとえば、二○○五年の夏にも、蜘蛛がやたらと多いように感じた人がいて、ブログで「何かの前触れでは? もうすぐ世界は終わるのかも」と記していた。二○○五年に世界が終わっていたら、今、僕はこうして話をしていない。

 もちろん、二○○五年にも、様々な出来事があった。件のブログを書いた人が、「世界の終わり」と結び付けそうな出来事だけを選んで列挙してみよう。

 

 三月二十日  福岡県西方沖地震

 三月二九日  スマトラ島沖地震

 四月二日  ローマ教皇ヨハネ・パウロ二世死去

 四月二五日  JR福知山線脱線事故

 七月七日  ロンドン同時爆破テロ

 七月二三日  エジプト同時爆破テロ

 

 他にも大きな災害や事故などが色々あった。でも、そんなのは、二○○五年に限った話ではないし、ひょっとしたら、もっとちゃんと調べれば、むしろ二○○五年は重大な事件・事故は少なかった年なのかもしれない。

「何してるんだろうね、国島先生」

「よそでも何か騒動起こしてなけりゃいいけど」

 異動になった先生たちは、数年、あるいはもっと長い間、行事ごとに顔を見せに来たり、電報が送られてきたりしているのだけれど、国島先生はあれきりだった。

「まあ、かたつむりのことは、撮影の合間合間に暇を見つけてって感じでいいよ」

「じゃあ、基本的に、式典の映像以外は、あたしのやりたいことを優先しちゃっていいんだね」

 ちょうど食事を終えたマリサが、今日一番の笑顔で言った。笑顔なのにちょっと怖い、なんてこは当然言えない。