『空にかたつむりを見たかい?』 第32回

シンガーソングライター 谷川拓也   ――知悦部地区小学校と地域を語る

 

 チャボってあだ名?

 あれは、洋ちゃんが言い出したんだ。

 同じ愛称のミュージシャンがいてね。あ、知ってるかな? そうそう仲井戸麗市さん。中学の時、顔がちょっと似てるって言われてね。それからなんだ。

 うん。僕もファンだよ。洋ちゃんとね、もう一人、音楽とか映画とか文学とかに詳しい奴が友達にいてさ。二人に色々教わったんだよ。いや、桑窪君ではないけど、そいつも知悦部小出身だよ。僕が中学の時、自力でファンになってたのは、ゆずと中村一義くらいだったからね。自力でファンって、なんか変な言い方かな。マンガは僕が一番詳しかったんだ。自分で描いてもいたよ。

 ああ、知悦部の話だったね。そうだなあ、そんなに密接に地域の人が結びついていたって印象はないな。まあ、僕が知悦部にいたのは、二年生までだったからね。引っ越したとは言っても近場だったから、中学になったら、また知悦部のみんなとも一緒になれたんだよ。洋ちゃんとは、転校先の小学校で知り合ったんだ。

 そうだ、僕がまだ一年生だった時、六年生にちょっと変わった面白い人がいてね。学校では、トシ君って呼ばれていたんだけど、ランドセルにドラえもんって書いてあったんだ。ドラえもんの絵が描いてあったんじゃなくて、文字でドラえもんって書いてあったんだよ。あれ、売ってたものなのかな。自分で書いたにしては、書体がしっかりしててね。六年生になると、みんなリュックとか別のカバンにしてるのが普通で、ランドセルっていうのも珍しかった。あまり話したことはなかったけど、有名だったんだ。

 ある日、家族とテレビを見ていたら、農作業を手伝っていた男の子が父親の運転するダンプに轢かれて亡くなったってニュースが流れてきてね。場所は町内だったんだ。それで、亡くなってしまった子の名字がトシ君と同じだったから、母さんがさ、「ドラえもんのお兄ちゃん、死んじゃったわ」って悲しそうに言ったんだ。でも、ニュースから聞こえてくる名前には「トシ」って文字はどこにもなくてね、僕は「でも、トシ君って呼ばれてるよ」って。そしたら、父さんと母さんが色々連絡簿とかを調べ出してね、「本当だ。トシヒロ君だわ。違う子だったわ」って。とりあえず、自分の息子と同じ学校に通っている子の名前は、うろ覚えだったはずだよ。

 いや、あんまり密接すぎるのも良くないと思うよ。あのくらいが、きっとちょうどいいんだ。

 インターネットが登場してからは、こんなド田舎でもマニアックなモノが手に入るし、世界も変わった気がするよね。でも可能性は開いても、人間のダメなところは消えないんだ。ネットだろうがなんだろうが現実の一部だからね。「好き」と「嫌い」ってやつが、どんなに世界が発展しても足を引っ張るんだよ。せっかくのテクノロジーをダメな方向に閉じるために使っちゃうんだ。人間はいつもそう。余計な人のつながりが世界を駄目にする。他人に無理に関わろうとする。そのクセ、少しでも不快に感じた者を世界から排除しようとする。なんか、偉そうに語っちゃったね。

 え? イヌフラシ? そうそう。僕だよ。そんなに広まってるとは思わなかったなあ。いや、話の流れで適当に、ポロっと出たんだよ。でもさ、そうやって知らないところで、何かが本人の意図とは関係なく広がっていくのって面白いと思わない? もちろん、怖いことでもあるんだけどさ。

 ねえ、ところでさ。動画サイトとかで歌ってるユイちゃんって、アユム君たちの同級生でしょ? あの子の歌、おもしろいよね。声もかわいいし。