夏季の柿

 柿を食べると具合が悪くなることに気付いたのは中学生になってからだった。別にその時はじめて柿を食べたというほど柿と縁遠い生活をしていたわけではないが、常に冷蔵庫に柿がキープされているほど常食していたわけでもないし、近所に柿の木もなかった。何かの拍子に柿が家へ招かれると、かたさのあるうちに食ってしまおうと切り分けて口に入れていただけである(私は基本的に果物はあまり熟していないものを好む。青臭いくらいでちょうど良い)。その何かの拍子も、青森に親族がいる関係で毎年贈られてくるリンゴなどと比べれば、滅多にあることでもない。味が嫌いだったわけでもないので(ぬるっとした食感はあまり好きではなかったが)、どうも自分の身体が柿と合っていないことに気付くのが遅れたのである。

 重めの蕎麦アレルギーを持っているが、柿がそれと同じくらいの症状を引き起こすわけではない。なんかちょっと腹具合が良くないなあ程度のものなので、それもまた体質に合わないことに気付くのが遅れた原因でもある。「柿は腹を冷やしやすい」という話も聞いたことがあるので、ひょっとしたらその影響を受けやすいのかもしれない。味に関しては前述の通り嫌いなわけでもないが、別にどうしても食いたいわけでもないので、気付いて以降はなるべく避けるようにしている。

 ゆえに、久しぶりに舞い込んでしまった「何かの拍子」も、これから母の実家にでもすべて委ねようと考えているのだが、しかし一つくらいは味を確認しておいたほうが良いのだろうかとも思う。その程度のことを考えるくらいには、私も人付き合いというものを気にするのである。ちょっとした嘘なんざ散々ついてきたのだから(「嘘はつかない」なんてことは言わない程度には正直に生きている)、「柿、どうでした?」と訊かれても、食ってもおらんのに「おいしかったですよ」と答えれば良さそうなものだが、好物だと勘違いされて頻繁に譲渡されるようになっても困る。体質のことを正直に告白しても、逆ギレなんかされても嫌だし、迷惑をかけてしまったと思い悩まれるのも心苦しい。

 どうして柿にこれほど悩まされなければいけないのかと考えると、柿という存在そのものを嫌悪してしまいそうにもなる。いや、いっそ嫌いになったほうが楽かもしれないけれど。

柿づくし: 柿渋、干し柿、柿酢、柿ジャム、紅葉保存