月までの旅路に笑いかけていたフジムラはすでにマラリヤ

 アポロ計画陰謀論に関してはすでに多くの学者や識者、懐疑論者たちによる反証が出ているし、陰謀論者も陰謀論者なりの更なる反論をあれこれ挙げているので、いまさら私がどうこう言う必要はないのだけれども、真相がどうあれ、単純に物語としての好みで言えば、「アポロはやっぱり月に行っていた」や「アポロは月に行っていない」よりも、「アポロは月に行きはしたんだが、撮影された映像が思いのほか地味だったので撮り直した説」というのを推したい。阿呆臭くて深刻さがなくて、それでいてやっていることは壮大で大変好ましい。

 

管制室(以下、管)「オルドリン君、ちょっと悪いんだけどね」

オルドリン(以下、オ)「お? なんだい? どうしたんだい?」

管「あのねえ、こっから見てるとえっらい地味なわけですよ」

オ「地味ってキミ、この無酸素のなか、宇宙服着て頑張ってる俺らにそんなこと言うかい」

管「いや、でもねえ。さっきからずっとね、宇宙服着たおっさん2人がだ、なんかやけにふわふわしながらうろついてるだけでね、これは嬉野君コリンズ君じゃなくったってある程度は寝ますよ」

オ「コリンズ君、寝てたんですかあ?」

コリンズ(以下、コ)「ビンビン起きてます僕は」

管「まあ、名の知れた演出家さんですとかカメラマンさんを宇宙船に乗せるわけにもいかなかったんでね、急ごしらえで嬉野君コリンズ君にカメラ持たせてはみたけれど、だ。」

コ「言わせてもらうけどねえ、僕のせいじゃないですよ。もう、景色が地味なんですよ」

管「そうですよ。だからねえ、君らも飛行士なら何か盛り上がるようなことすりゃいいんだよ」

オ「盛り上がってないかい? 僕らが月の石を拾うたびに地上の学者たちは歓声をあげてるはずだよお?」

管「つったって石ですからねえ。ミスターアームストロング船長もなんか言ってくださいよ」

アームストロング(以下、ア)「いやあ……でも石ですからねえ」

オ「んなこと言ったって、こんな砂と石だらけのとこでどうやって盛り上げるのよ」

管「いや、ほら、なんか蒸気で宇宙空間に吹き飛ばされるとか……」

オ「なんだ? 死ねってか?」

管「一回くらい飛ばされろと言ってるんですよ」

オ「おおい、うれしーコリンズ君、今の撮れてるかい? これは重要な証拠だよお」

管「ま、とにかくですねえ、これは世界中が注目してるわけですよ。だから、このままではマズイと」

オ「マズイって言ったって、じゃあどうすんのよ」

管「いや……ちょっと撮り直そうかなって」

オ&ア「え?」

管「いや、まあ、ね。こんなこともあろうかと思って、地上にも一応セットが用意されてるんですよ」

オ「セット? セットってなんだい?」

管「まあ、ですからね。万一、気の抜けたような画しか撮れなかったら、こっちでビシッとした画を撮ってですね、それを流そうかと……」

ア「え? でも中継してたんでしょ?」

管「まあ、有事の際に対処できるように多少のタイムラグをですね……」

オ「ちょ、ミスター船長、やつらインチキしようとしてますよ」

ア「さすがにバレるでしょ」

管「編集でなんとでもなるもん」

オ「おい、じゃあ何のために月まで来たのよ」

管「だから、君らは君らでね、そこらへんの石ころでも拾ってればいいさ」

ア「石ころって……(笑)」

オ「撮り直すって、俺ら戻れないでしょ」

管「いや、だから役者さんをね……」

ア「いや、だからバレるでしょ(笑)」

管「そんなもん、ヘルメット被ってんだからわかりゃしませんよ」

オ「おお、言ったな、おい!」

管「ですから、こっちはね。これからキューブリックさんかなんかを呼んでね、ビシィッとした画をだねえ」

オ「ミスター船長、彼は本気でやるつもりですよ」

ア「じゃあ、僕らはただただ使われもしない地味な石拾いを続けるんですか?」

オ「後で声だけもらうから」

 

……なんていう愉快なやりとりがあったんじゃないかと思うわけですよ。

いや、もちろん本気でそんなことを考えているわけではないけれど、どうせ妄想するなら、こういう話のほうが好きだなと。ミスター(こちらは本当に鈴井さん)も、「どうでしょう」でいつか宇宙に行きたいと発言したことがあったので、ひょっとしたら遠くない未来に実現するかもしれない。

 とりあえず今は新作の放送を心待ちにして、その日まで体調を崩したりしないよう気をつけようと思う。

笑ってる場合かヒゲ 水曜どうでしょう的思考 (1)

笑ってる場合かヒゲ 水曜どうでしょう的思考 (1)

  • 作者:藤村忠寿
  • 発売日: 2020/01/07
  • メディア: 単行本