恐るべき子供たち

 小さな子供と目をあわせると高確率で泣かせることができるほど鋭い眼光を持った女性が知り合いにいる。子供好きであれば悲劇的なことであるが、幸いにして彼女は小さな子供が苦手である。苦手であるがゆえに、ただでさえ鋭い眼光が余計に鋭利になり、幼子の眼球に容赦なく突き刺さる。私はすでに幼子ではないから分からないが、ひょっとしたら実際に痛みすら感じているのかもしれない。

 中学時代、家庭科の授業において近所の幼稚園に赴いての保育実習なるものがあった。誰がどう見ても幼児に懐かれそうもない私のような者も授業の名のもとに参加させられたわけだが、これは幼児にとっても私にとっても不幸なことである。しかし、私と同い年である上記女史も同じような授業に参加したことがあるのだとすれば(通っていた中学校は別)、いったいどんな阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されたのだろう。気にはなっているのだが、怖くていまだに伺うことができずにいる。もし、1999年~2002年頃に幼稚園児生活を送っていて、異様に目つきの怖いお姉さんが保育実習にやって来た経験のある方がいれば、こっそり教えてほしい。無用のトラウマを植え付けられていたのであれば、私が知人を代表して軽く謝罪致します。

 ところで、自分の幼稚園時代に、中学生くらいのおにいさんやおねえさんたちが保育実習にやってきたという記憶がない。今以上に病弱で休むことも多かったが、そういったことが行われたという話を聞いたおぼえもないし、そもそも当時の行事予定などを調べてみても、それらしき記載は見当たらないので、たぶんなかったのだろう。

 ひょっとしたら、私は要注意危険児としてマークされていて、それゆえに何も知らされることなく、こっそりとそういった催しから除外されていたとも考えられるが、だとすれば同じように上記女史も授業から除外されていたのかもしれない。信じるか信じないかはあなた次第的な恐るべき陰謀である。

恐るべき子供たち (角川文庫)

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