さるかに合戦をもう一度

 かつて、ナインティナイン矢部浩之さんの弟(14歳下)が中学3年の文化祭で「桃太郎」のお爺さん役を演じたことが『めちゃ×2イケてるッ!』で話題に上がり、放送を見た当時の私の同級生たちが、番組内でも触れられていたように、「中3で桃太郎」という点について笑いながら話しているのを見たことがある。しかし、彼らのうち、幼稚園の頃から共に日本的教育を受け続けていたA君は、かつて自分たちが小5で「さるかに合戦」を演じさせられたことを憶えていたのだろうか。私は30歳をこえてもなお自分が「かに(5)」であったことを忘れられずにいる。忘れてしまいたいのに。

 もっとも、蟹やら栗やら、場合によっては登場しなかったり別のものに改変されていることも多い牛糞などはともかく、臼の役というのは大抵、もっともふくよかな奴が自動的に決定させられてしまう。私たちがやらされた「さるかに合戦」においても、クラスで最もふくよかな男子児童が、これといった議論もなく、臼役であることが担任によってあらかじめ決められていた。

 当時の担任教師のことを私はいまだに良く思っていないので、これは蔑視的ではないのか、教育者としてどう説明をするのだと糾弾できないものかと考えたのだが、ふくよか君は最初から楽しそうに演じていた記憶があるため、どうにもこちらの分が悪い。そもそも、たったの2~3年で忘れ去っていた可能性のあるA君のような者もいるのだから、25年近く経った今、良くも悪くも当時の記憶を引きずっているとは考えにくいかもしれない。

 さて、「さるかに合戦」そのものについては、幼稚園に入る前に教育テレビの人形劇かなにかで見たのが最初だったと思うが、のちに衝撃映像特番でルーマニアの元大統領・チャウチェスクの処刑シーンを見たとき、祖父が「さるかに合戦の猿みたいなものだ」と言っていた。その意味では、臼役よりも猿役のほうが不名誉なのかもしれない。しかし、小学校あたりで演じられる際には、「最後は改心してみんなと仲良くなりました」という話になっていることも多いようで、それで良しとして構わないのかということも含め、教育現場における「さるかに合戦」の用いられ方い関しては、いろいろと思うところはある。

猿蟹合戦

猿蟹合戦