第四惑星人による第9地区におけるビラ星人とツインテールの生態観察報告

 ニール・ブロムカンプ監督による映画『第9地区』に登場する難民として地球にやって来たエイリアン達は、その外見から「エビ」というスラングで呼ばれている。南アフリカが舞台になっていることからも分かるとおり、アパルトヘイト政策が反映されたストーリーになっており、「エビ」達と人間とのいざこざをドキュメンタリー風に捉えた場面では、南ア暴動のニュースフィルムを参考にしたと思われる構図が多くみられる。

 映画に登場する多くの「エビ」達は、蟻や蜂における「働き蟻/働き蜂」にあたる層とされ、死亡してしまったらしい支配層ほどの知性はないものの、険悪になりながらも人間とのコミュニケーションはとれているし、「エビ」というスラングで呼ばれてはいるものの手も使える。それでも、差別的な扱いを受けるだけにとどまらず、武器開発の実験等によって惨殺されていたりするのが恐ろしい。もっとも、これは空想上の「エビ」達相手どころか、現実で地球人同士が行っていたことでもある。

 そして、これもまた創作物の中だけでなく現実でも稀に起きることではあるが、差別やヘイト的な感情による虐殺行為とは逆に、ある種の畏敬的な感情が捻じれたような形で行われる虐殺というのも存在する。『第9地区』でもエイリアンと同化することを望むギャング達が登場するが、彼らが行う同化のための儀式は「エビ」達を食すことだった。エビは世界中で食用とされているが、映画の「エビ」達はお世辞にも美味そうではない。いや、美味ければ喜んで食うのかと言われればそれもまた違うが、しかし、味の好みは人それぞれであるし、文化の違いというのもある。食って良いものと悪いものの線引きも一筋縄ではいかないのである。

 さて、「エビと食」と聞いて一部の特撮ファンが連想するのは、『帰ってきたウルトラマン』に登場した怪獣・ツインテールだろう。誰が食って確かめたのかは知らないが、こいつはエビの味がするらしい。共に登場したグドンという怪獣が好んで食っているようなので、グドンからどうにかして味の感想を訊きだした者がいたのかもしれない。ともかく、世にも珍しいエビの味がする怪獣・ツインテールだが、その姿はエビというよりは逆立ちするハサミムシに近い。明確に現実のエビをモデルとした怪獣といえば、『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘』に登場するエビラだが、こいつは伊勢エビやロブスターのようではあるものの、買い求め易いクルマエビあたりの印象は薄い。家庭の台所で縮こまっているクルマエビならば、たしかにエビラよりもツインテールのほうが近いが、そんな弱そうなイメージだと怪獣化されにくいのかもしれない。そういえば、ツインテールもやられ役である。

 エビラやツインテールは「怪獣」なので、『第9地区』の「エビ」達のような対話は相当に困難だと思うが、『ウルトラセブン』には「宇宙蝦(えび)人間」なる異名を持つビラ星人という宇宙人が登場する。画像を検索してみればわかるが、「エビ」達やツインテールよりもはるかにエビである(ただし、美味いかどうかは不明)。侵略しに来ているため、平和的ではないものの、対話は可能である。しかし、「エビ」達と違って、いったいどのようにして文明を築いてきたのか理解に苦しむ姿である。空想科学の世界には、こうした文明を興せそうにない身体の宇宙人が結構いるが、ビラ星人はその中でも上位に値すると思う。

 

(余談)コミュニケーションのとれるエビといえば、カルビーかっぱえびせん」のCMに登場したエビAとエビBを思い出す。声を担当したのが夢路いとし・喜味こいしなので、とにかく間が良い。なんなら、勝手に喋らせておくだけでも充分に楽しめるだろう。

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