街は消え、船が現れ、飛び降りた

 友達のいない人間にとって修学旅行というのは、常に遭難する危険と隣り合わせである。見知らぬ土地を見知っていると勝手に判断された名前もあやふやな同世代の人間たちと共に行動させられるのだから、少しでも気を抜けばひとりぼっちにされてしまう。学校での孤独に耐えることができる人間でも、見知らぬ土地での孤独だと急におろおろしてしまったりする。

 概して友達のいない人間というのは、他人に話しかけることが苦手であるから、その土地の人間に道を訊くのも困難であるし、また極端なマイナス思考の持ち主であることも多く、たまたま道を訊いた人間がとんでもない極悪人だったらなどと考えてしまって八方塞がりに陥る危険性もある。まったく気の休まることがない。

 だからなのだろうか、私は30代半ばという現在もなお、頻繁に見知らぬ街を冷や汗かきながら彷徨う夢を見る。30半ばの現在の自分が彷徨っているのなら、そこまで冷や汗をかくこともないのだが、夢の中の自分はたいてい金銭的余裕のない(今だってないが)貧弱な(貧弱さに拍車がかかっているという説もあるが)少年で、「修学旅行は楽しいイベント」だと信じて疑わぬ者たちに対する呪詛を抱きながら、明らかな危険人物の目で徘徊している。ヤケになってしまうこと(あくまで夢の中でだが)もしばしばで、先日も『飢餓海峡』のような結末を迎えたところで目が覚め、いまだ肉体にも精神にもダメージが残っている。2021年の初夢でなかったことだけが幸いである。

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