『薬』(2020年11月16日の夢をもとに)

 薬は老女の腕を煮しめたもので、三軒の木造家屋程の価値がある。腕は祈ればすぐに生えてくるが、その度にオオエドアブラマキトカゲが一匹失われる。この仕組みを知っているのは長老くらいのものだが、それが知れ渡ったところで土地の者は誰ひとり心を痛めたりしない。生えたての腕が誇らしげに語るには、薬として腕を提供する老女が痛みを感じないことを誰もが知ったいま、その先を考える者などいないらしい。祈りも形だけのものであるし、暮らしに支障をきたすものではない。たしかに薬を必要とする者は滅多に現れないが、いくらその先を考える者がいないといっても、薬が必要になる未来を想像したことがない者はおらず、薬が常に長老の家に保管されていなければ、日々の暮らしによって先を考える余裕を失うことすら叶わなくなるだろう。