「おいしい卵焼きを作るのが夢だった。」

 昔ほど観たいテレビ番組がなくなってしまった今もなお、野球中継の延長に対して過剰なまでの憎悪を抱いてしまうのは、散々泣かされてきた経験があるからだ。

 幸いにも今年の日本シリーズは巨人の4連敗により最短の日程で終了したが、それでも私の(昔に比べれば「数少ない」と言っても良い)お気に入り番組が数本延長の影響を受けた。録画機能や見逃し配信などの救済措置が充実していなかった時期であれば、全野球関係者および野球愛好者に呪いをかけていたことだろう。あの日のように(何度か経験あり)。

 さて、これは私が欠かさず視聴している番組というわけではないのだが、11月21日放送の『嵐にしやがれ』が中継延長の影響を受けており、そのことについてツイッター等に様々な声があがった。そのなかに、10月24日に行われた「嵐フェス2020」の収録で使用された花火の煙や風船が神宮球場に流れ込みヤクルト対中日戦の試合が中断してしまった騒動に触れ、「あの時、怒らずにいてくれた野球ファンがたくさんいたのだから、嵐ファンも暖かく見守りましょう」という旨のものがあったのだが、どれだけの数の野球ファンが騒動を大目に見てくれたのかは知らないし、嵐のファンがそういった気持ちで“暖かく見守る”こと自体は悪いことではないのだけれども、むしろ過去に数えきれないほど多くの他番組とそのファンに迷惑をかけてきた野球側がこの騒動に激怒していたのなら、それこそお門違いなのではないかと私は思ってしまった。

 野球延長を快く思わないのは、別に11月21日の『嵐にしやがれ』を待っていたファンだけではない。他の番組を待っている人も大勢いたことであろうし、野球嫌いの多くは過去の野球中継の横暴さに対しての恨みが蓄積しているのだから、嵐フェス2020での騒動だけを引き合いに出されても納得などできないのである。なんなら、この件で嵐側にもっと非難が集中していたのなら、たとえアンチ嵐であっても「この時ばかりは!」と嵐側についた可能性もある(私自身は、諸事情により一部の「嵐ファン」に対して嫌悪感を抱いてはいるものの、嵐自体に怨みはなく、出演作品や関連作品を素直に楽しんだこともたくさんある)。

 さて、そんな野球中継も私の度重なる呪いの効果か、今ではテレビ中継されることも少なくなった。昭和どころか平成さえ終焉した令和の時代、「巨人・大鵬・卵焼き」は歴史資料でしかなかくなっているのだろう。結局、一番息が長かったのは玉子焼きである。

 ところで、野球中継が盛んだった時代、雨天による試合中止の場合の穴埋め、いわゆる「雨傘番組」としてグルメ特番が予定されているのを新聞等のテレビ欄でよく見かけた。しかし、卵焼きの人気が最も息が長いという点から考えれば、題材としては野球よりもグルメのほうが数字を稼げるたのではないかという気もする。もちろん、テレビ番組として見たいかどうかは別の話であるし、穴埋めのための番組なのだから、きっと演出も編集も雑だったりするのだろう。日本の野球が嫌いな私でも、試合が中止になったからといって、穴埋めのグルメ番組をわざわざ観たりはしない。

野球選手が夢だった

野球選手が夢だった

  • アーティスト:KAN
  • 発売日: 2010/10/27
  • メディア: CD