海の向こうで先公が恥じらう

 教師に対する侮辱的表現である「先公(センコー)」という言葉。どうやら明治時代には既に生まれていたようで、なかなか歴史ある侮蔑表現らしいのだが、創作物などを除くと、実際に教師を「先公」呼ばわりしている児童・学生を見たのは一度だけである。

 使っていたのは高校時代の別のクラスの男子で、いつもへらへらした様子のいわゆる「いきがった」風の奴だった。関わりたくなかったので会話したこともなく、名前も思い出せないが、卒業アルバムのどこを探しても顔が見当たらないので、おそらくどこかのタイミングで何かやらかし退学処分になったものと思われる。素行の良くない者は男女問わず他にも見受けられたが、さすがに退学処分になった者は私の知る限りそう多くない。ろくでもなさが他の者より抜きん出ていたのだろう。

 陰で特定の教師を呼び捨てにして悪口を言っている者の姿はよく見かけたし、素行不良というわけではなくとも教師を快く思っていなかった者は他にもいたはずである。私自身、幼稚園から専門学校時代まで含め、「先生」と呼ばれる者たちの中には、いまだに強い怨みを抱き続けている奴が大勢いる。しかし、「先公」という言葉を使っていたのは、先述の男のみである。そこそこの歴史ある言葉ゆえに、私の世代ではすでに古い言葉という印象があった。ありていに言えば「ダサい」言葉と思われていたふしもあり、古風な不良というわけでもないのに、わざわざ「先公」を使ってみせたあの男は、素行不良な者たちのなかでも、やはりとりわけ頭の悪さが露わになっていたように思う。大人になってその恥ずかしさに気づいていればざまあみろだが、おそらく忘れているか、なんとも思っていないかだろう。

 なんだかんだで私よりは幸せに生きていそうな気もするので、たいへん不愉快ではある。確認のしようもないけれど。

海の向こうで戦争が始まる

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先公 (ジェッツコミックス)

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