傷つけようと思って傷つけることが得意なら、案外、傷つけるつもりもなく傷つけることは少ないかもしれない。

 ジョニー・デップが監督も務めた映画『ブレイブ』(1997年)は、家族に金を残すためスナッフフィルム(=娯楽用途に流通させる目的で行われた実際の殺人の様子を撮影した映像作品を指す俗語)に出演することを決心した男の物語である。カンヌ映画祭パルムドール候補にもなった作品で、自身のルーツ(ジョニー・デップはチェロキー族インディアンの血を引いている)を濃厚に反映させた点も含め、当時すでに超メジャーなスターであったジョニー・デップの初監督作品がこんな内容とは!と良い意味で驚いた。

 ところでスナッフフィルムは、その恐ろしさ・いかがわしさ、そしてそれ故のダークな魅力(「蠱惑」と言ったほうがふさわしいだろうか)のためか、映画だけでなく多くの創作物で取り上げられているほか、準じるようなものも含めた実際の事例を扱った書籍、都市伝説レベルの流言など、話としてだけなら様々な場で見聞きすることがある。しかし、当然と言えば当然ではあるが、本物のスナッフフィルムを入手したというような話のほとんどは信憑性の低いものである。

 私自身、幼少よりレンタルビデオ屋のホラーコーナーの片隅でひっそりと迷い込む者を待ち構えていた悪趣味系ビデオたち(アダルトビデオは桃色カーテンの向こう側に隔離されていたが、彼らは片隅ではあっても隠されていなかった。エロよりグロのほうが日常に近いのかもしれない)にかどわかされてしまった者の一人ではあるのだが、成人指定ではあっても一応正規のルートで流通されていたビデオに収録されているのは、逮捕されたスナッフフィルム製作者から押収された映像(劇場公開もされDVDも発売されている『バンドフロム 秘蔵!世界禁断映像』では、肝試しだと騙して木に縛り付けた男性を射殺するカップルの映像が紹介されている。もっとも、彼らが撮影した映像を裏ルートで販売したかどうかはわからない。彼らだけで楽しむものであったなら、厳密にはスナッフフィルムとは呼べなくなる)か、そうでなければ大半が酷いフェイク映像であった。法を犯すような悪い意味での度胸はないので、「スナッフフィルムを紹介した作品」を視聴することはあっても、スナッフフィルムそのものに手を出したりはしないのである。

 さて、あえて「法を犯すような悪い意味での度胸はない」と書いたのは、自分の良心とやらを盲目的に信じることができないからでもある。そして、こういった悪趣味なものを「良心に従って」見ることはしないと言い切れる者に対しての不信感も抱いている。

 もちろん、単純に怖くて見るのが嫌だという人もいるだろうし、「良いとは思わない」という感覚自体を否定するつもりはない。ただし、「良心に従っている人たち」が、たとえばスナッフフィルムとまではいかなくとも、悲惨なニュースなどを「良心に従って」すべて拒否しているかといえば、なかなかそうはいかないだろう。それらのニュースを見聞きすることは、はたして本当に世の中を知るためだけが理由なのか。多少の疑いは持ってみても良いのではないかと思う。

 

(余談)前述の『バンドフロム』で気になるのは、ブラジルの高層ビル火災の映像で、かすかに『ザ・ショックス 世界の目撃者』のナレーション(矢島正明)が聞こえることだったりもする。どうやらこの映像は大本のテープではなく『ザ・ショックス』から流用されたらしい。

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